その役をつくった理由が、後から分かることもある

――頼朝や義時にとっての厄介者を一人ずつ殺すシーンはいつもリアルで怖いですが、善児のおかげでか陰惨にならなかった。 三谷:梶原善のおかげです。で、善児が途中退場することになり、彼の跡継ぎを誰にしようか、と考えた。殺し屋は最終回まで必要ですから。二代目は善児ともっとも違うタイプにしようと思って、あえて女性にして、山本千尋さんにお願いしました。 アクションができる方で、昔、資料映像を観て、これはすごい人だと。本当は『真田丸』にも出演してほしかったんです。忍者の佐助には奥さんがいたという設定で。でもその時はご縁がなくて。初めてお会いしたのは『誰かが、見ている』のオーディションでした。その時はアクションはなく。『鎌倉殿…』のトウ役で、ついにあの見事な芸をお茶の間に披露することができた。 ――しかも善児の最期はそのトウに殺される。善児が父の仇だったわけです。あのラストがまさにラスト5分のどんでん返しでした。 三谷:トウで印象に残っていることがあります。政子が自害しようとするシーン(45 話「八幡宮の階段」)。完全に僕のオリジナルなんだけど。息子の実朝、さらには孫の公暁までが非業の死を遂げ、政子にしてみれば、命を絶とうと思ってもおかしくない。それであのシーンを作ったんですが、もちろん史実では自害していないので、ここは誰かが止めなくてはいけない。 「じゃあ誰が助ければ一番ドラマチックか？ 」と考えた時に、トウの顔が浮かんだ。残忍な殺人を繰り返してきたトウが政子の命を救う。殺し屋が言う「自ら死んではならぬ」という台詞の重さ。このシーンを書いた時に「そうか、僕はこのシーンを書くために、トウという役を作ったんだな」と初めて気づきました。 こういうことってよくあるんですよ。自分の意思じゃないんです。自分もなぜこのキャラクターを作ったのか、なぜそのキャラクターのこういうシーンを書いたのかがわからない。書き進めて、あとになって気づく。 ――きっかけは善児の後継者として誕生したが、書き進めて後半に「自ら死んではならぬ」という台詞が浮かんだことにより、そのキャラクターを作った本当の理由がわかる。 三谷:不思議です。そのシーンを思いついてからはすべて逆算でストーリーを作っていく。なぜトウは政子のいる御所にいたのか。誰かの暗殺に失敗して囚われていたことにすればいい。では誰の暗殺に失敗したのか。それで、トウが源仲章を殺しに御所に忍び込み、逆に罠にはまって捕まるシーンが出来ました。 最初トウの最期は、承久の乱の後に後鳥羽上皇を殺しに京まで行って返り討ちに遭うというプランだったんです。だけど、山本千尋さんのお芝居を観ていると、どうも違う感じがして。『鎌倉殿の13人』という暗い時代の暗い物語における、唯一の救いをトウに託したくなってきたんです。そこで最後まで生き延びて、御所で子供たちを育てていく設定にしました。トウが生き残ったのは、山本千尋さんのおかげです。 *　　　　　　*　　　　　　*