「労働規制が絵に描いた餅に」厚労省による “労働基準法見直し”議論 複数労組の共同団体が方向転換も提案
「使用者側の支配強化」につながる意見も
研究会では「デロゲーション」の議論にあわせて、労働者側の持っている同意権(拒否権)の「はく奪」とも捉えられる意見が出てきたという。 伊藤事務局長:「デロゲーションは使用者側と労働者側の合意が要件となっています。 ですが研究会では、『企業の内部のルールを作るための労使の話し合いであれば、使用者側に決定権を持たせ労働者側の意見を聞くという形でいいのでは』という意見が出ていました。 さらに、ほかの方の意見では『労使がコミュニケーションを丁寧にとり、健康経営と労働時間管理ができている場合には、デロゲーションを認めればいいのでは』という声もあがっています。 これらの意見は労働者側の同意権(拒否権)をはく奪するものであり、使用者側による支配強化にほかならないのではないでしょうか」
規制単位の転換「現行制度の有効性失いかねない」
また、労働基準法の適用を、現在の「事業場単位」から「本社単位」に転換しようという意見についても、伊藤事務局長は、規制の有効性が損なわれるおそれがあるとする。 伊藤事務局長:「現行のシステムでは、全国321カ所に設置された労働基準監督署が、各事業場の実態を見ながら監督指導を行っています。 ですが、企業・本社ごとに規制を行うべきだという要望が、日本経済団体連合会(経団連)から出ており、研究会でも一部の構成員から意見があがりました。 企業・本社単位の規制を推奨する背景には、トップダウンで労働基準法違反の根絶を指示することへの期待や、デジタル化により、例えばテレワークで全員が働いているなど、事業場がないビジネスが生まれていることがあります。 しかし、労働者側が本社に呼ばれてコミュニケーションをとるとなれば、本社の意向に丸め込まれてしまうのではないかという不安があります。 また、現状でも、事業場に対する規制とあわせて、本社への監督指導も行われており、企業・本社ごとでの規制に変えてしまうことで、かえって有効性を失いかねません」
「誰のための改正か考えて」
伊藤事務局長によると、厚労省の研究会では、まもなく議論のまとめに入るとのことだ。 伊藤事務局長:「研究会の議論では、週44時間労働の特例措置を無くすことや、家事使用人への労基法適用など、ぜひ実現してほしい意見も出ています。 しかし、医療・介護現場での夜勤規制や、16時間連続勤務の規制など、実際の労働者が求めている改正ポイントが無視されています。 研究会には、今一度誰のための労基法改正なのかを考えてほしい」
弁護士JP編集部