なぜバイエルン・ミュンヘンは伊藤洋輝を獲得したのか? その魅力と強みを福西崇史があらためて考える
バイエルンに加入し、今後課題になってくるのは、攻撃面では精度をより上げていくこと。ビルドアップで繋ぐ能力やロングフィードで前線の裏へ抜けてのパス、あるいは効果的なサイドチェンジは得意としていますが、そこでよりミスを少なく精度を上げることは、もう一段上の選手になるために必要だと思います。 守備面では一対一の強さ。体格には恵まれていますが、まだ競り合いや対人守備での強さには課題があります。ただ、そこはバイエルンへ移籍したことで大きく伸びる部分だと思っています。 私が磐田に加入したときもそうでしたが、チームメイトに能力の高い選手がずらりと揃っていることで、練習をしているだけで日々大きく成長できます。伊藤もバイエルンという世界でも屈指のタレントが揃うなかで練習をしていれば、それだけで守備面がどんどん伸びていくでしょう。 正直、リーグ戦よりも練習でチームメイトを相手にするほうが成長できると思います。それくらいあの環境にいられることは、伊藤にとってとても大きいことです。おそらくですが、そのあたりのポテンシャル、今後の伸び代といったところも評価の一つになっていると思います。 もちろん、前述したようにバイエルンにいることでCLという大きな舞台でのプレーも期待できます。世界最高峰のレベル、プレッシャー下でプレーする経験は、選手としての余裕や自信に大きく影響するでしょう。 日本代表では左SBとしてプレーして、左利きのCBの序列としても町田浩樹に後塵を拝する状況ですが、バイエルンでレギュラーポジションを掴めるようになれば、日本代表でもCBで先発になる選手だと思っています。 ただ、7月のプレシーズンマッチで右足中足骨を骨折し、数週間の離脱が発表されました。移籍したばかりでこれからチームに慣れていこうというタイミングでの長期離脱。慣れというのは、チームのやり方ももちろんですが、バイエルンというトップレベルの強度に体が慣れるということも含みます。 元々その強度にもすぐに慣れるだけの体は持っていると思いますが、それを維持できる体へ変化させ、慣れていくことは思った以上に時間がかかるものです。その適応に時間をさけるプレシーズンで、体が慣れてきてここから維持できるように作っていく段階だったと思います。そのタイミングで離脱することは非常に痛いなと思います。いずれにしても伊藤にとって非常に残念な怪我であることは言うまでもなりません。 今は焦らずに怪我をしっかりと治し、バイエルンのレベルでプレーできるフィジカルを取り戻すことに専念してほしいと思います。彼がバイエルンで当たり前のようにプレーできる日がくれば、欧州での日本人の評価はまた一段上のものになると思うので、伊藤の復帰と今季の活躍を楽しみにしたいと思います。 構成/篠 幸彦 撮影/鈴木大喜