再戦雪辱の裏にドラマが……日本ミドル級王者の竹迫が8回終了TKOでV3
ワールドスポーツの斎田会長は「今回、竹迫のためにやれることはすべてやった」という。 減量については、専属の管理栄養士をつけ、食事メニューを見直した。竹迫は、食事、睡眠、コンディションなどをずっとノートにつけているが、その内容を見直したところ、計量後のリカバリーの食事で塩分を過剰に取り過ぎていたため水分が筋肉に届いていなかった。 「だから足に力が入らなかったんです」 しかも、3キロ以上を直前に汗で一気に落とす“水抜き”と言われる減量法を採用していた。塩分の血中濃度は入院してもおかしくないレベルだったという。うまく落ちなかったこともあり、その苦労の反動で、計量後は、大幅に増量。78キロ近い体重でリングに上がった。だが、今回は、“水抜き”は使わなかった。最後に汗で落としたのは、1.4キロ程度。そして、計量後、試合当日の食事メニューと、その摂取時間までを栄養士に作成してもらい、3月16日に挙式をしたばかりの麻裕・夫人(26)が、そのメニューを自宅で再現した。麻裕さんは、竹迫をサポートするため、アスリートフードマイスターの資格まで取っている。前日計量後は、カステラ、うなぎ、バナナなど、当日は、餅入りのうどんやバナナ、ゼリー型の栄養補給剤などを決まった時間に食べて、当日の体重は、75、76キロに抑えた。 「軽くなった分、体が動いた」という。 前夜は、加藤との第一戦のビデオを見直した。 新妻の麻裕さんは「これまでそんなこと一度もしたことがありませんでした。勝利への執着がいつもより凄かったです」という。 もう一度、戦略と決意を確かめたのである。 「この5か月間。彼は、ずっとこの試合だけに集中していました。凄い努力をしてきたんだと思うんです。これまでは、“試合が終わったら、どこか旅行にいこう”という楽しい話ばかりをしていたのに、今回は、そんな話を一度もせず、“終わったらゆっくり休みたい”と言うんです。それくらい全力で練習をしてきたんだと思いました」 リングサイドで見守った麻裕さんは、そう言って涙ぐんだ。 再戦は男を強くする。 前回のドローで連続KOの記録は途絶えたけれど、その悔しさを竹迫は、成長という2文字に変えてみせた。 陣営は次なる構想を抱く。現在、空位のOPBF東洋太平洋同級王座への挑戦だ。7月9日に同級3位、細川チャーリー忍(金子)と同級9位、太尊康輝(角海老宝石)の間で決定戦が行われたが、引き分けとなり新王者は決まらなかった。現在、両者の再戦が優先される方向になっているが、竹迫には、その勝者への優先的な指名挑戦権がある。 「この階級は難しいことはわかっています。でも井上さんも、その難しい中でチャンスをつかんだ。2年以内には世界王者を狙いたいし、いつでもいける準備はしておきたいんです」 ミドル級は、WBA世界王者に返り咲いた村田諒太(帝拳)でさえ一筋縄ではいかない世界で最も人気があり選手層の厚い階級である。だが、この日、見事なボディショットで2ラウンドKO勝利をおさめスーパーウェルター級のWBOアジアパシフィックのベルトを再び腰に巻いた井上岳志が、1月に米国で果たしたWBOスーパーウェルター級での世界挑戦が、どこかで竹迫の心の支えになっている。 竹迫は、リベンジを果たし、一度、止まりかけていた世界挑戦への壮大な時計を再び動かし始めた。 1750人で埋まった後楽園は、記者席にいて耳がおかしくなるほど熱くなった。AKBカフェでバイトする加藤には、400人を超す大応援団がかけつけて、加藤の写真を使った“お面”などを使って会場を盛り上げた。割れんばかりの加藤コールに負けまいと、竹迫ファンの声援もTKO決着を後押ししていた。 試合後、加藤は「応援は完璧だった…なのに自分が完璧じゃなかったので本当に申し訳ないです」と言って涙を拭った。 技術云々ではない。ラスベガスがすべてでもない。ボクシングが人々を引きつける原点を見せてもらった真夏の夜だった。