“怪演女優”松本まりかに訪れた転機 光の「ミス・ターゲット」闇の「湖の女たち」 真逆の作品出演で“気付き”
女優の松本まりか(39)が、キャリアの節目を迎えている。初のゴールデン・プライム(GP)帯連ドラ主演作となるテレビ朝日系「ミス・ターゲット」(日曜、後10・00)が放送される中、17日に主演映画「湖の女たち」が公開。ともに代表作となり得る挑戦的な役柄に挑み、多面性を提示している。注目は、両作の間で「演技を反転させた」と説明するアプローチ。闇の力で怪演、熱演を続け、評価を高めてきた遅咲きの演技派は、光の属性へと変化しつつあるという。その心とは-。 【写真】闇の“黒まりか”ヤバいくらい美しい! 甘い声に陽性の笑顔で対面に座る松本が、映画の中の介護士と同一人物には見えなかった。 「あのときは、そうすることでしかこの作品はできないと思って、すべてのコミュニケーションと自由を遮断しました。彼女の苦しい体感覚や欲求みたいなものが、開いていると、ここ(心)が燃えている感じが分からなかったりするんですよ。だから閉じ込めて、閉じ込めて、閉じ込めて、自分の中で突出してくるものを感じられるような環境作りをしました」 福士蒼汰とのダブル主演作「湖の女たち」は、芥川賞作家・吉田修一氏の小説を原作に、湖畔の介護施設で起きた殺害事件とその周囲の人間模様に迫る。松本が演じたのは、刑事の支配欲に従じ、特殊な関係性におぼれていく女性。性的な描写や入水シーンを含む、心身共に極限に近づく役どころだ。 1カ月に及んだ琵琶湖畔での撮影期間は、自分で見つけた一軒宿「宝船温泉」で和室に独りこもった。直前までエンタメ性の強いドラマ「最高のオバハン 中島ハルコ」を撮影しており「そこから一週間ないくらいで『湖の女たち』に入ったので、そのギャップ、ポップさ、都会で生きている感じを抜くにはそうするしか自分には選択肢がなかった」と説明する。 現場では大森立嗣監督から「感じろ。まりかがどう動きたいか。それが正解だよ。感じたものが正しい」と演出を受けた。「『もっと本質で、君の感覚で動いて。それをオレは信頼するから』って。役者を信頼する覚悟がすさまじい方だったんですね」。正解は与えられない。自分の中にしかない。困惑しつつ身を投じた。 撮影を終えても、ずっと大森監督の言葉が頭の中にあったという。「撮影が終わってから1年半、あのとき言われたことって、どういうことなんだろうって考えていました」。答えは突然、やってきた。 「『これかぁ~』みたいに、カコーンって分かった感じがあります」。探し求めていた感覚をつかんだのは、婚活中の元結婚詐欺師を演じている「ミス・ターゲット」。「湖の女たち」とは、真逆のラブコメディーだった。 「まったく違う種類の作品だけれど、根幹には『湖の女たち』のベースがあります。いままで、とにかくネガティブな感情や苦しさを原動力にして演じてきたけど、満たされたところからも表現は生まれてくるんじゃないかって思ったんです」 追い込んで、閉じ込めて、心の奥に湧いたエネルギーに着火する。ブレークしたのは30歳を超えてからの遅咲き。15歳でデビューし、モノクロの10代20代に抱いた鬱屈(うっくつ)した感情を原動力にして怪演女優として評価を高めてきた。 「今まで仕事がなくて、ふつふつとしたものから演じるエネルギーってある意味、爆発力はあります。でも、一瞬爆発はするけど、長続きはしない。ずっと苦しいまま。極限状態で限界を何度も味わったときに、これ以上、もう苦しみたくないなって思ったんです」 闇から光への反転。演技へのアプローチそのものを変質させた。柔らかく、解放し、自由な心に身を任せる。 「それまで満足したことがなかった人生だから、折り返しとなったとき、これからは信頼とか愛をベースに表現ができたら、こんなに幸せなことはないなって思ったんですよね。今では反転して、撮影直前までおしゃべりしてます。準備はしっかりした上で遊ぶように演じる。いろんな感受性が開いて、すっごい笑ったところからパッと悲しい表現ができたりもするんですよね」 闇のパワーの到達点を映画で示し、光の自由さを連ドラで届ける。「黒まりか」と「白まりか」が同時期に交錯する最高のタイミングが不惑を前に訪れた。「いまこの瞬間が楽しいの連続で、残りの人生は生きていきたい。生き方が180度変わる、みたいな、そんな時です」。希望に満ちた柔和な笑みが、取材部屋にいた全員をハッピーオーラで包み込んだ。 ◆松本まりか(まつもと・まりか)1984年9月12日生まれ。東京都出身。2000年にドラマ「六番目の小夜子」で女優デビュー。ゲーム「FINAL FANTASY X」のリュック役など声優としても活躍する。18年のドラマ「ホリデイラブ」でブレーク。主な出演作はNHK大河ドラマ「どうする家康」やドラマ「向こうの果て」「それでも愛を誓いますか?」「妖怪シェアハウス」など。