惜しまれて完全引退 小田急の白いロマンスカー
VSEの到着までまだ30分ある。そこで、思い切って多摩線で4駅乗った黒川駅(川崎市麻生区)まで電車で移動。新興住宅地の中を通過する築堤のカーブを見通せるいい場所を確保した。 さて、近づいてきたVSEの走行音はとても静かで、わずかにコトン、コトンと、車輪の音をたてて目の前を通りすぎていく。白い車体はこの日も磨き上げられて輝いていた。窓ガラス越しに見える乗客は短い旅を楽しんでいる様子。思わずカメラを右手だけで構えてシャッターを押し続け、左手で小さく手を振った。 登場からわずか18年で引退する理由について、会社の説明では「特殊な構造や装置を採用していることから本来の性能を維持して運行することが困難になった」と、今後の部品調達等の難しさを挙げている。特殊な構造の一例は、車輪を取り付ける台車の位置だ。 一般に鉄道の台車は2軸4輪で車両の前後に置かれるが、VSEは「連接車」と言って、車両と車両の継ぎ目に台車を置いている。カーブでもスムーズに走行できるよう工夫した小田急ロマンスカー伝統の構造だったが、これだと輸送量に応じた車両の増減、切り離しができないことや、ホーム上のドアの位置が一般の車両と違うなどの不便さもあって、VSE以降に製造されたロマンスカーはいずれも連接車ではなくなってしまった。
早すぎる引退は実に惜しい。惜しむ気持ちは小田急のニュースリリースにもにじみ出ている。VSEは「さまざまなシーンで当社の顔を飾ってまいりました」「当社においても特別な存在です」と、その思いを表現しているぐらいだ。今後については「ロマンスカーミュージアム(海老名駅隣接)での展示に向けて検討する」とのこと。実際に何両が残されるのか分からないが、再びお披露目される日を期待したい。 ☆共同通信・篠原啓一