折り紙を半分に折る作業を続ける人口減少社会 ── 産経新聞・河合雅司氏
■1年間で出生数が36万人減った
── 河合さんは大学の客員教授も務めていらっしゃいますが、こうした問題に対する若い世代の反応はいかがですか? 河合氏 若い人ほど切実に考えています。『今まで大人たちは何をしていたんですか』『なんでこんなひどい状況になるまでほっていたのですか』などと言われると返す言葉がないですよ。本当は同じことを私も親の世代に言いたいですね。私の親の世代はその上の世代に言いたいかもしれない。 ── なるほど、何世代にもわたる問題なのですね。 河合氏 出生数の減少というのは、日本社会の意思そのものなんですね。戦後のベビーブームは日本だけがあっという間に終わり、1949年と比べて1950年は年間出生数が36万人も減ったのです。わずか1年間で、1割以上減ったということですよ。それ以来、おおむね下り坂できたことを専門家たちは知っていたわけです。このまま続いたらどういうことになるのか、どういう社会がいずれくるのか、知っている人は知っていた。しかし、それが社会問題にまでならなかったのは、先ほど申し上げたように「昨日と今日」は変わらないからですよ。大事な問題ではあるけれど、どの時代の政治家も官僚も目の前の大きな問題を優先せざるをえないところがあるので、長期の課題は後回しにされていくのです。 ── メディアやわれわれ国民もそうだったのかもしれません。 河合氏 それが、いよいよ地方が成り立たなくなるくらいにまで、目に見えて影響が出てきたから、慌てはじめている。もう、なんとかしないと手の打ちようもなくなる状況です。少子化については手遅れ感があるくらい減ってきてしまっているので急がなければという思いが強くあります。今、(合計特殊出生率は)1.44しかないですから。折り紙を半分に折る作業を日本社会は続けているのです。
■社会を作り変えなければ間に合わない
── 『未来の年表』では日本を救う10の処方箋を提言されています。 河合氏 予測の内容があまりに衝撃的なので、処方箋が生ぬるいと言われる読者もたくさんいらっしゃるのですが、処方箋として書いたものは結構、踏み込んだ内容なんですよ。政治家や官僚は決して言えない大胆なことを提言しているわけです。でも、それが生ぬるく思えるほどこの本を読まれた方は「人口減少カレンダー」に危機感を感じていらっしゃるわけです。私としては、政策としてやらなければいけないことと、国民が意識を変えなければならないことを、書いたつもりです。 ── 河合さんご自身は新聞社の政治部記者として政治の現場、政策の現場をずっと見ていらっしゃった。 河合氏 人口問題には学生の頃から関心がありましたが、新聞記者として社会保障取材の現場にいたことが、この問題を強く意識する契機になりました。もう対策を始めないと間に合わないなという思いにさせられたのです。しかし、この問題に対する政治や行政の取り組みは、相変わらずセクショナリズムに陥って議論をしている。年金など社会保障の問題に矮小化して議論をしているわけです。 ── 具体的にはどういうことですか? 河合氏 年金に関して言えば、年金の支給額をどうやって上げるのかという議論ばかりしてきたわけです。私はむしろ、今もらっている年金額で暮らせる社会を作っていくべきなのではないか、ということを提言してきました。それは現在の年金水準で入居できる高齢者向けの安い住宅作りなさいということです。年金制度改革の議論は住宅政策とワンセットで考えるべきです。つまり「高齢者の暮らし」ということで物を考えないといけないのではないですかということです。それは2つの役所に関わることです。年金政策は厚労省が担当し、住宅政策は国交省がやっている。両省庁の官僚と議論をして出来たのがサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)です。でもサ高住は料金が高すぎるので、どうしますかということを今、問いかけているわけです。それぞれの役所のテリトリーでこの問題をとらえていくことが続く限り解決の糸口は見つからない。制度改革の話ではなく、社会を作り変える話なのです。そういう政策をやらないともう間に合わないと私は思っています。