暖冬に強い小麦の品種改良法を発見 世界的注目、福井県立大学の村井耕二教授ら
福井県立大学創造農学科の村井耕二教授(63)らの研究グループは、暖冬に強い小麦の品種改良法を発見したと発表した。日本で栽培されている品種と海外の野生種由来の品種の人工交配を繰り返し、暖冬時の収量低下抑制を確認した。気候変動に適応できる新品種の開発につながる成果とし、実用化されれば食料の安定供給への貢献も期待される コムギは秋に種をまき、冬を経て春に開花・結実し、初夏に収穫される。冬は低温状態で茎が分かれる「分けつ」の時期だが、暖冬になると数が増えずに長さが伸びる傾向があり、収量低下が課題になっている。 研究グループは日本の栽培種「ふくさやか」と、中東に自生する野生種「エギロプス・ムティカ」由来の品種を人工交配。野生種由来の品種の雌しべに栽培種の花粉を付け、できた雑種の雌しべにさらに栽培種の花粉を付ける作業を7年かけて計7回繰り返した。 研究によると、暖冬だった2023~24年シーズンの「ふくさやか」の分けつ数は、21~22年シーズンに比べ約3分の1だった。一方、交配した「ムティカ・ふくさやか」の分けつ数は約2分の1に抑えられた。 品種改良で主流となっている細胞核のゲノム(全遺伝情報)を利用した手法ではこれまで暖冬に適応した小麦は開発されておらず、今回はムティカのミトコンドリアや葉緑体の細胞質のゲノムを利用。この手法は世界で初めてといい、論文が国際専門誌の電子版に11月28日付で掲載された。 研究グループは現在、県立大あわらキャンパス(あわら市)の実験ほ場で、「ムティカ・ふくさやか」と福井県のブランド小麦「ふくこむぎ」由来の品種を交配し、暖冬適応品種の開発に向けた研究を進めている。25年完成、30年の品種登録を目指している。 研究グループは12月18日に発表。村井教授は「気候変動に対応する農業は緊急の世界的課題。長年かけて研究し、品種改良の新しい手法を見つけられたことは大きな意義がある。食料の安定供給につなげていきたい」と話している。 ◆新手法、世界的注目 渡辺正夫・東北大教授(植物遺伝育種学)の話 気候変動に対応できる品種を育成できるかは重要な課題。未利用の野生種の細胞質ゲノムを利用するという新規な手法を開発し、世界的にも注目される。
福井新聞社