不動産会社が新宿区のアパートから住人女性に“立ち退き”を求める訴訟、二審でも棄却 「正当な理由のない更新拒絶は認められない」
「このような手段自体が、社会からなくなってほしい」
判決後に被告側が開いた記者会見で、平出さんは以下のように語った。 「オーナーが変わって3日後に『取り壊すから出ていってほしい』と言われた。私は法律に詳しくないが、おかしいと思った。理由を聞いてもそれを告げられず、更新拒絶と言われ、訴訟を起こされた。訴訟の段階で、会社側は後出しで理由を主張してきた。 地裁で会社側の主張が認められなかったら、今度は高裁に訴えられた。 安い給与の中で、裁判を行うことは、すごく不安があった。この後に最高裁に訴えられたり、違う訴訟を起こされたりしたら、どうやったって音を上げてしまう。そういうのは、おかしいと思う。 私は支援者がいたから、声を上げることができた。 会社側は訴訟によって数十億円の損害が出たという(※)。こんな風に、訴訟によって立ち退かせようとすることは、企業にとってもよいことではない。このような手段自体が、社会からなくなってほしいと思う」(平出さん) ※「柿の木訴訟」を支える会のホームページには、原告が金融機関から数十億円の融資を断られ、事業計画がとん挫したという旨が記載されている。 「柿の木訴訟」を支える会事務局の後藤浩二氏は「正当性すらない、スラップ訴訟のような裁判。こういうことはまかり通らない、と多くの人に知ってほしい」と訴える。 「本訴訟によって会社側や融資した金融機関は損害を出し、痛い目を見ることになった。『住まいの権利』を侵害しようとすることは、社会的にも通らない。 オンライン署名は5000筆以上も集まった。企業対個人の訴訟で、これだけ集まるのは珍しい。全国の住人たちが、声を上げている。 名誉毀損で訴えられることを危惧して声を上げられない人々もいるかもしれない。全国の人々が見ていることを示して、こういった事態を繰り返させないようにしたい」(後藤氏)
「不動産企業としての社会的責任を問いたい」
被告側代理人の戸舘圭之弁護士によると、不動産明け渡し訴訟は弁護士なら何度も経験する機会がある、裁判所で“ルーティーン”のように行われている訴訟であるという。 「しかし、今回の裁判には、通常では済まされない問題がある」(戸舘弁護士) 原告のWebサイトで顧客向けに事業を紹介しているページには「入居者問題の解決 例:立ち退きなどのお手伝い」との記載がある。戸舘弁護士は「実質的に『追い出しを行います』と主張しているようなもの」と指摘する。 「アパートやマンションに住んでいる人々はそれぞれの人生を抱えている。お金を払って解決するような問題でもない。人の住まいを扱う、不動産企業としての社会的責任を問いたい」(戸舘弁護士) 経済的利益のためにアパートなどの取り壊しを行いたい企業が住人に立ち退きを求めて、住人が求めに応じない場合には不動産明け渡し訴訟を行う事例は、近年でも多数行われている。戸舘弁護士は、正当な事由がない立ち退き請求は認められないことが明示された点に今回の判決の意義がある、と評価する。 一方、法律上は、次回の契約更新の際に会社側がまた立ち退きを求めて、断られたら訴訟を起こすことが可能だ。戸舘弁護士は、平出さんが「賃料を毎月払う」「借りている部屋を破損しない」「大声で騒がない」など賃貸契約上の中核的な義務を守っていると示したうえで、「正当な事由がないのに立ち退きを求めることは許されない、と声を上げていきたい」と語った。
弁護士JP編集部