「神宮外苑再開発」問題が、都知事選の争点どころか実は都民が口出しすべき事案ですらないと言えるシンプルな理由
見落としてはならないポイント
ところで、ここまでの大掛かりな工事の費用を、どうやって捻出するのだろうか。 開発後には、事務所棟、複合棟A,複合棟Bの3つのビルが建設されることになり、これらが民間所有となる前提で工事費用を捻出する計画となっている。 東京都が用意した「公園まちづくり制度」という仕組みを使い、従来よりもオープンスペースを広くし、緑地帯も増やしながら、民間の力を利用して、より望ましい状態へと公園を整備しようとしていて、これによって神宮内苑の森がしっかり守っていける経済的基礎が築かれるようにもなっているのだ。 そして、ここで見落としてはならないポイントは、この大掛かりな整備計画には、東京都や国のお金は全く入っていないという点だ。 また、神宮外苑は東京都の都市計画公園に指定されていて、これまで開発が制限されてきたが、それでも明治神宮が所有する「民有地」だという前提も忘れるべきではない。明治神宮側の配慮によって、一般の人たちが公有地と勘違いしてしまうほど自由に使わせてもらえているだけであって、実際には明治神宮の所有地なのだ。 ここの緑地スペースを今より広げる方向で再開発を進めることに対して、一部に高層ビルが建つからけしからんなどという言い分が、一体どこまで主張できるのか。 民間が、補助金などの公的資金を全く使わずに、オープンスペースも緑地帯も今よりも広げ、ラグビー場にせよ野球場にせよ、時代に合わせてアップデートしていこうとしていることを、「けしからん」「やめるべきだ」なんて、都側が主張ができる根拠がどこまであるのか。
それでも左翼界隈が反対する理由
この話の原点は、おそらくは坂本龍一氏が、もともとの資本主義嫌いから、神宮外苑が私有地なのか公有地なのかも知らないまま、公的資金が使われないことも理解しないまま、さらに内苑と外苑の区別も付けない中で、貴重な森が失われると勘違いして、反対声明を出したまま亡くなってしまったことにあるのではないかと思う。 左翼的市民運動のアイコンとして重要な坂本龍一氏の考えを否定することは、左翼界隈ではタブーとなっている。そしてこの坂本龍一氏の遺志を継げとの対応は、その界隈の強い支持を集めるには、極めて重要だ。だから蓮舫はこれを争点化すると、ぶちあげざるをえなかったのだろう。 ユネスコの諮問機関であるイコモスも計画撤回を求めているなどということが報じられているが、単に声の大きな主張にしか耳を傾けないイコモスのあり方が改めて浮き彫りになっただけだと見ればよいだろう。 神宮外苑の再開発について、現実的に考えれば、国や都、都民がその再開発のあり方について余計な口出しをすべき事案ですらないことを理解してもらいたい。
朝香 豊(経済評論家)