TRICERATOPS、活動休止前最後のライブツアー開幕「デビューして27年、今でもこうした景色が見られてとても幸せ」
愛と感謝の思いがたっぷり詰まった空間が広がっていた。楽しくて熱くて温かくて、でも時折、懐かしくて切ない、感情がめまぐるしく揺れ動く時間となった。待ち遠しかったツアー、でも終わってほしくないツアー、『TRICERATOPS 無期活動休止TOUR '24-'25“DEMOLITION&ELEVATION”』の初日公演、11月19日の川崎CLUB CITTA'。 【全ての写真】TRICERATOPS、活動休止前最後のライブツアー ステージの背後に掲げられた「TRICERATOPS」のロゴがいつもよりも存在感を持って視界に飛び込んでくる。今回のツアー、タイトルの中に“DEMOLITION & ELEVATION”という言葉がある。この言葉を日本語に直訳すると、“破壊と向上”といったところだろうか。新しい何かを創造するためには、それまでにあった何かを壊さなければならない場合もあるだろう。バンドは永遠に走り続けることはできない。どこかで立ち止まる瞬間も必要であるに違いない。“無期活動休止”という言葉からも分かるように、今回のツアーは大きな節目となるものだ。果たしてどんなステージになるのか。開演直前の会場内には、期待感と緊張感とが入り交じった空気が漂っていた。 だが、3人が登場した瞬間に、その空気は熱気へと一変した。吉田佳史(ds)がリズムを刻み、林幸治(b)のベースが加わり、客席もハンドクラップで参加。さらに和田唱(vo&g)のギターが入り、和田がカウントした瞬間に、スリーピースの奏でるスリリングなバンドサウンドに一気に引き込まれた。胸の高鳴りを音楽に変換したようなグルーヴに乗って、客席がダンスフロアと化して激しく揺れている。熱烈なコール&レスポンスが起こっている。懐かしい初期のナンバーが演奏されると、大歓声。“キャー!”という黄色い声援と、“ウォーッ”という野太い雄叫びが混ざり合っていく。老若男女のすべてを、もれなくハッピーにする歌と演奏だ。 「よく来てくれたね。みんなに会えてうれしいです。今日はこの3人で最後まで、がっつり楽しませようと思っています。みなさんのすることはひとつです。嫌なことを全部忘れて、好きなだけ踊って歌って騒いでください」と和田のMC。その言葉どおり、ひたすら楽しいステージが展開された。セットリストは、TRICERATOPSがデビューからこれまでの27年間で発表した楽曲の中から選りすぐりのナンバーが並んでいた。ベスト・オブ・ベストと言いたくなる構成である。しかも、どの曲もライブ映えする。“観客に喜んでもらいたい”“楽しんでもらいたい”という3人の思いが真っ直ぐ伝わってくるセットリストなのだ。そしてまた、27年の歴史の中でのターニングポイントとなった曲が演奏されることによって、バンドの足取りが見えてくる瞬間も多々あった。 懐かしさのあまり、感極まった人もたくさんいただろう。ただし、懐かしさとともに新しさが加わっているところが、TRICERATOPSのTRICERATOPSたるところだ。新たなアレンジが施されている曲も目立っていた。ブルージーなセッションを導入部として始まったナンバーでは、グルーヴィーかつファンキーな演奏にしびれた。ブレイクの瞬間にも、大きな歓声と拍手。デビューから27年、進化し続けてきた証しとして、“2024年のTRICERATOPS”がステージの上に存在していたのだ。自在なセッションが入ってくるところも、彼らのライブの醍醐味だ。吉田を頂点として、上手に和田、下手に林。その3人の形成している三角形が自在に形を変えていく。大きくなったり、小さくなったりする、その三角形の動きに見とれてしまう瞬間もあった。ともに歌える曲が数多くある。ステージ上と客席との境目がなくなり、全員がひとつになっていく光景は感動的だ。バンドの観客への思いと、観客のバンドへの思いが溶け合い、スリーピースではなくて、何百ものピースがひとつになって、大きなうねりを生み出していた。 “踊れるロック”を軸としながらも、じっくり聴かせるナンバーも散りばめてある。アコースティック編成での演奏も聴きどころのひとつ。ボーカルとコーラス、そしてそれぞれの楽器の奏でる音色のニュアンスの豊かさを堪能できるからだ。憂いを帯びた歌声と繊細なアコースティックギター、深みと味わいを備えたアコースティックベース、軽やかさとふくよかさを備えたカホーンとシェイカー。アコースティック編成によって、3人の“歌心”が際立っていく。スリーピースでここまで奥行きと深みのある歌と演奏を展開できるところが素晴らしい。 アコースティック編成での演奏が“うっとり”をもたらしてくれるものだとすると、近年の彼らのステージの恒例となっている林と吉田のセッションは“高ぶり”や“荒ぶり”をもたらしてくるものとなった。ふたりの生み出す骨太なグルーヴは、まるで恐竜の咆哮のように迫力に満ちていて、エネルギッシュでダイナミックだ。こんなにも観客を熱くできるリズム隊がいるところにも、TRICERATOPSの唯一無二の強みがある。