さらば森田「えげつない心労」個人事務所の苦労語る
個人事務所社長の苦労
――最近、芸能人の独立が続いています。 森田さん: ぼくら、芸人仲間に「独立したらもうかるでしょう」とめちゃめちゃ聞かれます。やっぱりもうかっていると思われる。それに大きな事務所だと、自分たちのやりたい仕事ができないとか、テレビでは表現の制約も多い。一方で、ぼくらは伸び伸びと自由にやっているように見えるんでしょうね。けれどしょせん、他人の芝は青く見えるということで、実際やってみたらどんなに大変か身にしみてわかると思います。税金でこんなにもっていかれるんや、とか、経費がこんなにかかるんや、とか、知らなかったことばかり。けれどビジネスの世界では、見栄を張らなければならないこともある。やりがいはあるけれど、同じくらい苦労があるんです。ぼく、いま偉そうに言っていますけど、それも全部、独立して苦労したから知った知恵です。だから芸人仲間が相談にきても、「独立イコール絶対おすすめ」とはなりません。ただ、将来が漠然と不安になる人気商売ですから、そんな気持ちになるのは痛いほどわかります。 またYouTubeやSNSなど、いろんな選択肢があるのも迷う一因です。いずれにせよ、独立を考えている人に言いたいのは、想像するのと、経験するのはまったく違うということです。
――では、なぜさらば青春の光は独立することになったのですか? 森田さん: 若手芸人の大阪時代は、とにかく食えなかった。いま思えば自分たちが生意気だったなあ、と反省しているんですけど、賞レースの決勝にいき、単独ライブが成功、劇場で出待ちのファンがいるくらい人気が出ても、本業のお笑いで稼げるのは月5万円。コンビで折半すると2万5000円。バイトで必死に食いつなぐしかない。ぼくは31歳という年齢的な焦りもあるし、経済的に追い詰められていたのが主な理由です。そして、とがっていたというか当時勘違いしていたぼくは、吉本興業の芸人がネタにするみたいに「ギャラが少ない」と会社の悪口を言いまくっていました。まあ自業自得ですよね、会社とギクシャクして、退社することに。まさに若気の至りでした。 ――ほかの事務所へ移籍することは考えたのでしょうか? 森田さん: はい。ほんとはぼく、ウッチャンナンチャンさんや出川哲朗さん、バカリズムさんがいるマセキ芸能社に移籍したかったんです。アプローチしましたが、業界全体が「さらばと付き合うのはやめろ」と問題視していましたし、にっちもさっちもいかない。お笑いは大好きで、それを職業にできるのは最高なんですけど、かといってテレビや舞台には立てないし、お先真っ暗。不安しかなかった。ましてや東京は誰も知らない。これからどうしていいのか途方に暮れ、借金して生活をやりくりする毎日でしたが、以前「キングオブコント」で一緒だったしずる(吉本興業)さんが、インディーズライブに何度かゲストで呼んでくれたんです。崖っぷちのぼくらに手を差しのべてくれた恩人ですね。 ――そのときはまだフリーですよね。個人事務所を設立した経緯は? 森田さん: 完全に世の中に取り残されるなか、救ってくれたのはMXテレビ。四苦八苦しているぼくらを面白がってくれる奇特なプロデューサーがいて、番組の企画で個人事務所を作れ、となった。そのときはぼくら、なーんにも考えていませんでした。それでぼくの父親に名前を考えてくれと頼み、命名されたのが『森東』。で、とにかく会社をおこしてみたんです。収入は、マネージャーとぼくらで三等分するというシンプルなもの。マネージャーが頑張って営業してくれることで仕事が増えると期待して、給料制じゃモチベーションが上がらないし、第一、小さな事務所で始めたことが大きくなったら夢があるじゃないですか。どこまでできるかわからないけど、会社を作って、まずやってみようと思ったんです。 ――会社をおこすのも経営するのもお金がいります。そこはどうしました? 森田さん: そこが問題です。事務所家賃や事務的な手数料、また活動すると経費がどんどん出ていく。まずありがたかったのが、先のMXテレビさんが番組終了間際のタイミングで、会社の権利をそのまま譲ってくださった。ラッキーと思いましたね。けれどそれだけでは運転資金はまったく足りないので、政策金融公庫を訪ねました。満額の300万円の融資を申請して、面接を受けるんです。いきなり飛び込んだので、お前らバカかと思われたかもしれません。面接担当者はいかにも実直そうな女性の方でした。後日あらためて伺うと、その方が「YouTubeでネタを拝見しました」と。ぼくらのぼったくりバーのネタを「すごく面白かったです」と真面目におっしゃる。ほんまですかと、内心はどうなるのかヒヤヒヤ。普段のネタ作りやコント内容を聞かれ、緊張しつつ一所懸命答えていたら、「融資は大丈夫だと思います」と満額回答をいただきました。思わずバンザイしましたね。そこからお付き合いがはじまって、現在まで7年です。どこの馬の骨かわからないようなぼくらに真正面から向き合ってくれて、大事なお金を貸してくれるなんて、ほんと感謝しかありません。 ――孤軍奮闘する森田さんを応援しようと。世の中、捨てたもんじゃないですね。 森田さん: はい。きちんと利子を払っていますし、大きなお返しができるようがんばろうと思いました。けれど苦しいときは追加融資をお願いしたり、実際は頼ってばかりです。つくづく、会社は資金繰りがほんまに大変なんやと実感しています。で、会社を作ったときに、どっちが社長をやる? という話になりまして。実はそれもMXの番組のなかで、相撲で決着つけようということになりました。相方は空手の黒帯で同志社大学卒のエリート、一方ぼくは高校を留年するほどの落ちこぼれ。高卒で借金まみれのダメ人間が社長になるチャンスは、現実社会では皆無です。それに相方は直感的にアカン、ぼくが社長になるべきや、と考えていましたから、本気で勝ちにいきました。結果、その後起こした不祥事を考えるとよかったかもしれません。