藤井聡太竜王・名人の指し回し

　ほんの少し前まで窮屈そうにしていた飛車とは思えないほどの捌きぶりだった。将棋界の早指し団体戦「ABEMAトーナメント2024」予選Cリーグ第1試合、チーム藤井 対 チーム豊島の模様が5月25日に放送された。チーム藤井がスコア2-3とリードされて迎えた第6局は、藤井聡太竜王・名人（王位、叡王、王座、棋王、王将、棋聖、21）が糸谷哲郎八段（35）と熱戦を展開。終盤、自陣に長くいた飛車を見事に捌いて快勝につなげたシーンに、チームメイトであるレジェンド羽生善治九段（53）からも「さすがとしか言いようがない」と絶賛された。 【映像】藤井聡太竜王・名人、圧巻の飛車捌き 　気づいたら形勢が良くなっている――。藤井竜王・名人の将棋を説明する上で、よく使われる表現だが、これは周囲の予想を超える部分で読みを働かせ、鮮烈な一手ではなく次々と指し進めた結果、大きくリードしているということを意味する。糸谷八段との終盤でも、リードし始めた中盤から終盤にかけて、特に右辺での戦いが絶品だった。 　藤井竜王・名人の先手で始まった一局は角換わりからスタート。糸谷八段は3三金型を採用し、かつ独特な駒組みを用意して、八冠保持者に向かっていった。これには藤井竜王・名人も少し面食らった様子もあったが、相手にポイントを許すことなく中盤、終盤とほぼ互角の攻め合いに。さらに指し進めるに連れて、堅い玉型を活かしながら少しずつ差を広げていった。 　周囲の棋士から絶賛されたのが、終盤の攻防だ。藤井竜王・名人の飛車は長く2九の地点に留まり、なかなか動きにくい時間続いていたが、糸谷八段が飛車を使って攻め込んできたところ、流れるように飛車交換に持ち込み、今度は持ち駒のした飛車を即座に糸谷陣に直接打ち込む捌きを披露した。これには解説していた石田直裕五段（36）も「こんなきれいに捌けるんですねえ」と脱帽。控室で見ていた青嶋未来六段（29）が「気づいたらこうなっている」とつぶやくと、羽生九段も「本当にそうだね」としみじみ語った。 　この飛車捌きから勝負の流れも大きく傾き、終わってみれば藤井竜王・名人が133手で快勝。改めて控室では青嶋六段が「さすがですね」と語ると、羽生九段からも「さすがとしか言いようがないですね」と、呆れるほどの強さといった表情を見せていた。 ◆ABEMAトーナメント2024　第1、2回が個人戦、第3回から団体戦になり今回が7回目の開催。ドラフト会議にリーダー棋士11人が参加し、2人ずつを指名、3人1組のチームを作る。残り1チームは指名漏れした棋士が3つに分かれたトーナメントを実施し、勝ち抜いた3人が「エントリーチーム」として参加、全12チームで行われる。予選リーグは3チームずつ4リーグに分かれ、上位2チームが本戦トーナメントに進出する。試合は全て5本先取の9本勝負で行われ、対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。優勝賞金は1000万円。 （ABEMA/将棋チャンネルより）