いまさら「トリガー条項発動」を検討せざるを得ない岸田総理の事情
元日本銀行政策委員会審議委員でPwCコンサルティング合同会社チーフエコノミストの片岡剛士が11月28日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。約43兆円の防衛費やトリガー条項について解説した。 【写真】岸田文雄首相、鼻をつまむ (@参院予算委員会)
岸田総理、円安でも防衛費「43兆円維持する」意向表明
岸田総理大臣は11月27日の参議院予算委員会で、今年度から5年間で防衛費を総額約43兆円に増やす方針をめぐり、円安に伴う装備品調達価格の上昇にかかわらず総額は維持する意向を表明した。 ―– 岸田総理)43兆円という金額は、政府としては必要な防衛力を用意するために閣議決定した数字ですので、この範囲内で防衛力を強化していく方針は変わりありません。為替の動向もしっかり見ながら一層の効率化、合理化を徹底しながら、財源の確保と合わせて具体化してまいりたいと考えています。 ―– 飯田)防衛費43兆円という金額は、1ドル=108円を前提に計算されており、さらに上振れする可能性があるということです。円安でもこの枠は維持するという話ですね。
円安で装備品の価格も上がっているが、税収が増えていることも取り上げるべき
片岡)円安で装備品の価格が上がるため、コストもかさむという話を念頭に置いていると思うのですが、逆に言うと円安で国民の所得が増え、名目の所得も増えるため、税収も伸びているわけです。 飯田)そうですね。 片岡)「費用は増えているけれど、税収も増えている」という状態なので、ことさら費用の部分だけを取り上げて「ここが上がっているから苦しい」と言うのは、少しミスリードではないかと思います。もちろん、増収分を何にでも使っていいわけではありませんが、税収が増えているのは事実なので、そこも取り上げた方がいい。「困っているから何とか切り詰めないといけない」という発想になりやすいので、そこは注意するべきだと思います。
価格上昇が続き、元売りへの補助金対策も延長せざるを得ない状況に ~トリガー条項を発動していれば、こんなことをしなくてもよかった
飯田)今回の参議院予算委員会は補正予算案の審議が中心でしたが、衆議院の議論では、国民民主党の玉木氏が言ってきたことですが、ガソリンの「トリガー条項」凍結解除についても「検討する」と示されました。 片岡)なぜ検討しなかったのか。エネルギー価格の高騰が長引くと思っていなかった、というよりは「長引くと思いたくなかった」のでしょう。このような状況で、元売り業者の方々に対して「補助金を出すので値段を上げないようにしてください」というような、「当座しのぎ」という言葉だと言い方が悪いかも知れませんが、現実的にはそのような対策を取ったわけです。 飯田)そうですね。 片岡)原油価格が上がる状況が終わったら、「一刻も早く元の状態に戻せる」という前提で対策を打ったわけですが、残念なことに、そうはならなかった。原油価格が上がり続ける状態が続き、なおかつグローバルなインフレ率も急速に物価が下がることにはならず、ずっと価格上昇が続いています。そのため、元売りに対する補助金対策も延長せざるを得ない。「そもそもトリガー条項を見直していれば、こんなことをしなくてもよかったのではないか」という話になっているのが現状だと思います。 飯田)早く発動していれば。 片岡)お金の効率化を考えると、やはり最初からトリガー条項を発動した方がよかったのですが、それをしなかったため、いまになってツケが回ってきたような感じがします。