水処理に威力…住友電工、異色の中空糸膜が急成長のワケ
住友電気工業には主力の電力・通信ケーブルや電子部品などとは異なるユニークな事業が多くある。中でも異色なのは、汚水を濾過する中空糸膜だ。特に中国で、下水や産業廃水の処理用に販売を増やしている。きれいな水は多くの国で不足し、処理・再利用が世界の流れになりつつある。事業規模は明らかにしていないが、2030年ごろに100億円を目指すという。なぜ中空糸膜を造ることができて、需要も伸ばしているのだろうか。(大阪・田井茂) 【写真】中空糸膜表面の拡大図 住友電工の水処理事業は、伊丹製作所(兵庫県伊丹市)の一画にある。そこの一室に白く細長い「ひも」が多く並べられ、大きな水槽も置かれている。このひもが中空糸膜。外径2ミリ―3ミリメートルの中空で、外側の膜には0・1マイクロメートル(マイクロは100万分の1)の微細な穴が無数にある。 これをたくさん束ねて一体化し、汚水の中で外から水圧を加えると外側で汚泥がこし取られ、中空からきれいな水を回収する。中空糸膜の原理は競合品と同じだが、違いは内側に張り付く支持層と呼ぶ別の膜。その膜穴は2マイクロメートルと外側より大きい。外側は細かな汚泥を取り除き、内側は中空糸膜の強度を強め水もよく通す。 水処理事業開発部の安井健真企画業務部長は「外側も内側も、材料はフッ素樹脂のPTFE(四フッ化エチレン)。微細な二重構造はまさにノウハウで、競合メーカーも驚く」と説明する。実は、ここが電線メーカーの技術の見せどころ。中の金属線と外の被膜を一体化する電線加工はお手の物で、それを中空糸膜へ巧みに応用した。製造を始めたのは04年。中空糸膜では後発ながら中国で売れ、15年からは同国での売り上げが毎年前年比50%も急増した。 住友電工はPTFEを特殊な工法で引き伸ばし、繊維の網目が微細な穴になる膜シートに成形。それから中空糸膜を製造する。PTFEは高価だが、フライパンの表面処理で知られ、薬品や熱の耐久性に優れる。中国は慢性的な水不足で産業廃水を再利用する。水質汚染も強い。高い濾過能力と耐久性を備える住友電工の中空糸膜が、威力を発揮した。 「PTFEからつくり世界で売れるのは当社ぐらい。販売の80%を中国が占める」(安井部長)。電線の被覆材もフッ素樹脂。住友電工は電線メーカーで、フッ素技術にも強い。かつての樹脂事業部門が中国に拠点を置き、拡張の余地もあったので、同国でフッ素樹脂の中空糸膜を製造している。 現地の代理店が自国製として努力し売ったことでも、中国販売が伸びた。製造前の膜シートはノウハウであるため、伊丹製作所でつくる。東アジアを中心に売り、事業の成長率は年平均5%。ただ日本は水が豊富で、水道料金も安いため市場が小さい。コストも課題で、欧米の競合メーカー並みに抑えたい考えだ。 住友電工の源流技術から派生した中空糸膜。だが「ニッチ(すき間)市場で、膜が水処理に絶対に必要というわけでもない。中国の次にくる市場をどう開拓するかが課題になる」と思案する。