地味すぎる!?けど見逃せない…!「涙が込み上げてきた」「今年ベスト映画!」オスカー候補作に映画ファンが太鼓判を押す理由
2度のアカデミー賞受賞歴を持つアレクサンダー・ペイン監督と名優ポール・ジアマッティが『サイドウェイ』(04)以来のタッグを組んだ『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』が公開中。第96回アカデミー賞をはじめ数々の映画賞を賑わし、高い評価を集める本作には、試写会にてひと足早く作品を鑑賞した人からも 【写真を見る】甘いマスクと確かな演技力で魅了する、現在21歳の新鋭ドミニク・セッサ 「今年ベスト映画に入れます!」(20代・男性) 「とてもすてきなヒューマンドラマでした。会場内もところどころ笑いに包まれるなど多幸感があり、エンドロールではじわじわと目元が熱くなりました」(20代・女性) 「こんなに『沁みる』物語だと思っていませんでした。泣かされました」(50代・女性) など絶賛の声が数多く寄せられている。「もう1回観たい」や「泣ける」「沁みる」などの言葉が多く届いており、観客から寄せられた感想と共に、映画ファンが太鼓判を押す理由に迫っていきたい。 ■孤独な3人が交わる、心温まるクリスマスの物語 本作は寄宿学校のクリスマス休暇を題材に、休みを家族と過ごせない少年と彼を監督する嫌われ者の教師、戦争で息子を失った寮の料理長という孤独な魂を抱える3人の交流を、時に笑いを、時に涙を交えながら描くヒューマンドラマだ。 1970年、ボストン郊外の全寮制の名門バートン校ではクリスマス休暇を迎え、大半の生徒が家族の元へと帰っていった。そんななか、生徒からも教師仲間からも嫌われる古代史の教師ポール・ハナム(ジアマッティ)は、複雑な家庭事情により家に帰れなかったアンガス・タリー(ドミニク・セッサ)の子守役に任命されてしまう。 学校にはハナムとアンガスに加え、ベトナム戦争で一人息子を失った料理長メアリー・ラム(ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ)も残っており、3人は徐々に心を通わせていく。クリスマスの夜、「ボストンへ行きたい」と言いだしたアンガス。彼の希望を叶えるため“社会科見学”としてボストンへと一行は向かう。そこでそれぞれの秘密が明かされていく…。 ■観る者の心に残る、“置いてけぼり”にされた3人のキャラクター これといった派手さや奇をてらった展開はいっさいないものの、観客の心に深く刻み込まれる本作。その根幹となっているのが、魅力的な3人の主人公たちだろう。 ジアマッティ演じるハナム先生は「不器用な生き方だが、自分らしさを失わず誠実に生きた方」(50代・女性)と寄せられているように、善良でいることを貫こうとした結果、怠惰な生徒たちに強く当たってしまう、口の悪い世渡り下手なおじさん。 「融通がきかないキャラだけど実は勉強家で思いやりあふれる教師であり、血の通った生徒思いの優しい男性」(30代・女性) 「学校にいた先生を思い出しました。偏屈なおじさんに見えて、意外といい人」(20代・女性) 「こんな先生に出会っていれば、きっと人生変わったし、救われただろうな…」(20代・男性) 頑固な振る舞いから勘違いされがちだが、根はいい人なハナム。正論を振りかざし、人付き合いが苦手、そんな複雑な人物像をジアマッティが巧みに活写。ある悲しい過去やコンプレックスを抱え自分の世界にこもりがちな男性が、徐々に心を開いていく様子には「気難しくも徐々に打ち解けていく演技がすばらしかった」(20代・男性)、「ポール・ジアマッティ史上No.1と言っても過言ではないかと思います」(20代・女性)など絶賛の声が並んでいる。 一方、そんなハナムを突き動かしていくのが、新鋭ドミニク・セッサが演じているアンガスだ。成績はいいが問題行動が多い。持ち前の回転の速さから、ハナムの嫌味にも間髪入れずに切り返す場面も。 「寂しさ、悪賢さ、優しさが、多くの人の印象に残ったと思います。思春期の不安定さと素直さがもう見てられないってドキドキしました。すばらしかった!」(30代・女性) 「狭い世界にいるあの年代の子の歯痒さがせつない。素を出せるようになったあとの子どもっぽさもまたせつない」(40代・女性) などの感想からもわかるように、込み入った家庭背景を抱え、なかなか素直になれないアンガスだが、賢く、優しい心を持ったキャラクター。セッサはそんなアンガスの思春期特有の繊細な感情を見事に体現しており、「物分かりがよさそうなのに、まだまだ子どもだなと思わせられる絶妙に危うい年頃を見事に演じていると思いました」(20代・女性)、「今後引っ張りだこだろうな!つらさを抱えるものの演技が、ほかの2人に負けていない」(20代・男性)など称賛の声がズラリ。本作で映画デビューを果たしたセッサは、「グランド・イリュージョン」シリーズの3作目にあたる『Now You See Me 3』の出演を控えるなど、さらなる飛躍が期待される逸材だ。 「愛情があり、彼女の言葉ひと言ひと言に心が包まれました。寄り添おうと相手をしっかり見ている。自分のことも大切にしてほしい、と思ってしまうくらい優しい」(20代・女性) 「ぶっきらぼうだが、包容力があるおもしろい人」(40代・男性) 「しゃべらずともその存在感はすさまじく、人の気持ちがわかる女性なのだろうなと思いました。妹と言葉もなく、抱擁するシーンは涙腺が緩みました」(20代・女性) 「誰からも愛されるような心温かい女性。亡くなった息子をずっと愛し続ける、とても芯のある女性」(10代・男性) などの熱量のある言葉がズラリとアンケートに並んでおり、このことからも多くの観客の心に残ったことを証明しているのが料理長のメアリー。他者に関心がなさそうに見えて、しっかり観察し、時に皮肉めいた言葉でハナムをいさめる。ハナムとアンガスの関係を少し引いたところから見守る役どころを抜群の存在感で演じ、作品に深みをもたらしている。 ダヴァイン・ジョイ・ランドルフは、息子を亡くした虚しさで心が折れそうになりながらも、ハナムやアンガスとの交流によって一歩ずつ前に進んでいくメアリーを言葉に頼らずに表現。「彼女の全方位的にどっしりした安定感がこの映画に欠かせなかった気がします。助演女優賞、納得です」(50代・女性)との言葉のとおり、本作でアカデミー賞助演女優賞受賞も納得の演技は、観客の心を揺さぶったようだ。 ■笑って泣けるシーンばかりで飽きることない133分 「大きな盛り上がりはないけど、2時間以上飽きることなく観れました」(50代・女性) 「コメディとドラマの要素のバランスが絶妙で、彼らの孤独さが重すぎず、でもちゃんと心に響くすてきな作品でした」(20代・女性) 「それぞれの人生を露わにしながら、過去と向き合い、最後には一歩進ませている物語はとてもよかったです、感動しました」(40代・男性) そんな3人が紡いでいく物語は、決してドラマチックではないが、随所に盛り込まれたユーモアが心地よく、チャーミングなやりとりなど魅力的なシーンばかり。クスッと笑えると同時に心にスッと沁み入るような感動ももたらしてくれる場面も多く、印象に残ったと挙げられたシーンも多岐に渡っていた。 そのなかでも多かったのが、「ハナム先生とアンガスが2人でボストンで過ごす時間の流れがとても好きです。お互いできなかったこと、心に空いた穴を埋めるような感じに私には見えて、親子のようでとても微笑ましかったです。この時間がずっと続いてほしいって思いました」(30代・女性)。ボストン旅行中のある行動により退学になりかけるアンガスをハナム先生が庇うなど、ハナム先生とアンガスの距離が近づくシーンにグッとくる、という言葉が並んだ。 「先生がアンガスを庇って、最後に無邪気に軽口を叩くアンガスに『Keep your head up』って言うところにぶわぁ~って泣きました!」(50代・女性) 「それまでの台詞のつながりや、たった2週間でも生まれた彼らの関係性の集大成を観ているようで、感動したのと同じくらい鳥肌が立ちました」(30代・女性) また、3人の絆を象徴するボストン旅行中のレストランシーンも印象的。アンガスが頼んだデザートが酒を使っているという理由で堅物店員に断られ、代わりに店の駐車場で車のボンネットで即席デザートを作るも、酒を掛け過ぎたせいで火が消えずあたふたする、という爆笑シーンだ。 「くだらないことをして笑い合っている3人が印象的でした」(30代・女性) 「駐車場でアイスを食べようとするシーン。堅かった先生がどんどん楽しんでいるように見えた」(30代・女性) 堅物だったはずのハナムやどこか仏頂面だったメアリー、反抗してばかりだったアンガスが、心から笑う姿にほっこりした人も多かったようだ。 ■1970年代を再現した、映像、音楽、美術…細部へのこだわり 『サイドウェイ』『ファミリー・ツリー』(11)など名作を手がけたアレクサンダー・ペイン監督。本作でも登場人物たちの哀愁や心の機微をリアルに描写しながら、クスッと笑えるユーモア要素、考えさせられる社会への風刺が散りばめられている。ペイン監督作の味をしっかり味わえるうえ、1970年代という少し昔を舞台にした物語でありながら、しっかりと現実味を感じられる点も本作が心を揺さぶる理由の一つ。その時代感を演出しているのが、映像や音楽や美術といった細かな部分へのこだわりだ。 「映画の年代にあった音楽、撮影風景など監督のセンスがより映画に現れた作品だと感じた」(10代・男性) 「古っぽい映像が時代にマッチしていてよいです!アイスに火をつけたあとや、爆竹をつけている時など、あえて引きの画で映しているのが効果的で、愛おしさを感じました」(30代・女性) 「ストーリーを手堅くそつなく見せると同時に、絵画のような色彩や映像、巧みな音楽の使い方がすばらしい」(60代・男性) 「音楽もよかった。ピアノの1音が背景の音に溶け込んで響くところもゾクゾクした。言葉や仕草、周りの建物や小道具などのこだわりを聞きたくなりました」(30代・女性) 70年代当時のものにアレンジされた冒頭のユニバーサルロゴを筆頭に、フィルムプリントのような映像の質感。随所に盛り込まれた「新婚ゲーム」や『女王陛下の007』(69)、『小さな巨人』(70)といった当時のカルチャーに、作品を盛り上げる70年ごろの楽曲まで、レトロな雰囲気が漂っており、当時を知らない人でもどこか懐かしい気分を覚えるはずだ。 ビッグバジェットムービーが注目されがちな昨今の潮流とは逆を行くような、派手さこそはないがウェルメイドで心温まる作品となっている『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』。 「笑って泣けて、少しせつないけれど、前を向く力をもらえる映画だと思った」(30代・女性) 「ラストにかけてジワジワと涙が込み上げてきました。泣きながら笑える稀有な作品です」(20代・男性) 「誰でも心に闇があるもの。でも心が通じ合えば楽になれるし、信頼できる。魂の寄り添いを感じられる映画」(30代・女性) 「生きていると大変なことやつらいことにたくさん出くわすけど、この映画を通して少しでも優しい気持ちになってくれたらうれしい。前を向いて生きていこうと思える本当にすてきな作品」(20代・男性) 「人生の孤独に優しく寄り添ってくれる1本」(50代・男性) 「映像もストーリーも笑えてうるっときて感情揺さぶられる、でも最後にはあたたかい気持ちになる話でした」(20代・女性) などのコメントにもあるどおり、孤独を感じる人やつらい時期など、いいことばかりじゃない人生の場面に寄り添っててくれるような、いまを生きる人たちのための1作となっている。ぜひ劇場に足を運んで、ほかの観客と共に笑い泣き、映画に込められた優しさを感じ取ってほしい。 構成/文・サンクレイオ翼