リスクヘッジに余念のない女たち 老後が怖いから……
本業をより深く理解するために
建築会社に現在勤めるHさん(27)は大学院で建築デザインを学んだ。会社では不動産を販売したりもするが、お客さんは不動産を購入する理由として資産形成に対する興味が高い人も多い。そこで、Hさんは顧客側の視座に立つためにも資産形成に興味を持った。 Hさんは社会人になってすぐNISAを開始、同時に個別株の取引も開始した。リスク分散のために色々な企業、また国も様々に投資している。やはりガッツリ儲けたいというよりも、将来の生活をちょっと良くするために株投資をしている。「6%ぐらいの利益率でいいと思っています。個別株も長期で持つつもり。自分は建築をライフワークとしておばあちゃんになってもやっていたいので、もしお金儲けがしたいなら本業の方を磨くことで頑張りたいです。株の利益は、例えば将来おばあちゃんになって海外の島国あたりに別荘を持ち、一年中暖かい所を往復する2拠点生活とかのために、補助的に使いたいです」とHさんは笑って言う。 建築に関連しそうな業種をみて、勉強もかねてその業界・業種に投資を行っている。「例えば、IT関連も建築にどんどん密接な関係をもって来ているし、製薬会社の工場を作るから製薬業界のことを知らなきゃ、などと学びながら投資を行っています。色々な業界の構造がわかり、楽しいです。今のところ、株が怖いと思ったことはないです」 お金を銀行に預け入れることでは、将来理想の生活を築くことの補助にほぼならない。であれば株に投資して少しずつでも利益を上げて、その理想の生活の夢にちょっとでも近づきたいくらいの気持ち。だからこそHさんはそんなに焦らない。「逆に、贅沢は配当金の範囲内ですると決めているので、散財癖が今の生活ではつかないので、生活のディフェンスにもなっていると思っています」
投資をしている人は半数近くに
博報堂キャリジョ研プラスは2024年6月、20-59才の女性150人を対象に「個別株・投資信託など)投資意識に関する調査」を行った。グラフ1の母集団は調査対象者全員150人。グラフ2は、グラフ1で投資をしていると答えた67人を母集団とする。 グラフ1をみると、投資をしている人は半数近くおり、グラフ2では、投資先としては新NISA積立投資枠の割合が最も多くなった。 グラフ3の母集団はグラフ2同様、グラフ1の「投資をしている」と答えた67人を母集団とする。グラフ4は、グラフ2で「株式投資」や「新NISA成長枠」など企業の株式投資をする人27人を母集団とする。 グラフ3から投資の目的は、「老後のための資金作り」が最も多く、将来への備えを考える人が多いことがわかる。「貯金するだけではもったいないため」と合わせると、長期的にじっくりお金を増やしていきたいという希望が多い。また、グラフ4の投資先の選定理由は、長期投資を目的としているからか配当金を気にして投資をしている人が最も多いことが分かる。 今回インタビューをしたケースは、元々慎重派が多く、リスクは回避したいタイプの人が多かった。しかし、現状、日本は社会保障が世界的にみるとしっかりしている国とはいえ、物価高、少子高齢化は避けられず、かなり先行きが不透明なこともあり、今は本業があっても、そこにプラスアルファで資産形成をしないことは、将来に向けての最大のリスクになっていると、彼女たちは共通して感じているようだ。株という“小さいリスク”を取ることで、将来の大きいリスクを回避する最大のリスクヘッジになっているのだろう。 いま、制度の補助や証券会社のシステムの改善などもあり、株式投資は行いやすくなっている。株自体にリスクがあることは理解しつつ、堅実に投資すれば資産形成は行えると考える人は少なくないようだ。また、今回の調査グラフ4の結果からも、ただ株価が上がりそうな企業をみて投資をするというだけでなく「企業のサービスや商品が気に入ったら投資する」と答える人が29.6%おり、「理念に賛同できる企業を選ぶ」も18.5%と、株の投資を楽しんでいる様子も窺える。自分の学びや社会貢献としての投資がモチベーションへとつながっているようだ。
文:北里礼(博報堂キャリジョ研プラス)