仁左衛門×玉三郎 半世紀以上におよぶ黄金コンビを語る 「錦秋十月大歌舞伎」で共演
2024年10月の歌舞伎座公演「錦秋十月大歌舞伎」の『婦系図(おんなけいず)』に出演する片岡仁左衛門と坂東玉三郎の取材会が行われ、本作への意気込み、そして長年にわたり愛され続けてきたコンビについての思いを語った。 【全ての画像】片岡仁左衛門、坂東玉三郎の取材会の模様ほか 『婦系図』は泉鏡花の同名小説が原作で、この度は語学者の早瀬主税(仁左衛門)とその内密の妻である元芸者のお蔦(玉三郎)の別れを描く悲恋の場面を中心とした物語を上演する。仁左衛門は2008年以来6度目の主税役、一方、玉三郎にとっては1983年以来、41年ぶりのお蔦役で、『婦系図』での共演はじめてのこととなる。 仁左衛門は、お蔦を深く愛しながらも、自分を拾ってくれた恩義ある師の命に従い、別れを切り出さなくてはならない主税という役を「しんどい役です(苦笑)」と表現しつつ「しんどい役はあんまり好きじゃないんですけど、これ(主税)は好き」とも。では、どのあたりが好きなのか? と問うと「それは申し上げません。(観客が)そこを意識されてしまうので」と静かに笑みを浮かべるが、玉三郎はそんな仁左衛門の心情を「おそらく多面的なところがお好きなんだと思います」と推察。過去に共演した同じ鏡花の『滝の白糸』の村越欣弥や『日本橋』の葛木を例に「(村越や葛木は)多面性はあまりないけど、主税はいろんな面を持っている。“芯”がある役という部分が気に沿うんじゃないかと思います」と語り、仁左衛門もその言葉に深くうなずく。 一方、主税に尽くしながらも別れを告げられるお蔦について、玉三郎は「役の魅力というのはなかなか説明できないんですが……」と断りつつ、湯島天神での別れの名場面で、お蔦が主税が師から預かった手切れ金を一度は「こんなもの」と投げつけるも、最後は収め「あなたより先に死ぬまで人の髪を結って暮らします」と口にするシーンに言及。 「そういう時代の人間たちというものを感じますね。先代の(水谷)八重子先生が『十三夜』をやる時に『いま、こういうのはわかってもらえないと思うのよ。でもしんみりとわかるというより、こういう人たちがいたんだな…とわかってもらうしかない』とあの時代にすでにおっしゃっていました。どっぷり共感できるかはわからないけど、『こういう恋人たちがいたんだ』と実感していただくことが大事なんじゃないかと思う」と語る。 若い頃から“孝玉コンビ”として数々の名作を共につくり上げてきたふたり。印象深い共演作を尋ねると『於染久松色読販』、『桜姫東文章』、『盟三五大切』、『熊谷陣屋』などを挙げつつ「数限りないですね…」(玉三郎)としみじみ。『廓文章 吉田屋』に話が及ぶと、玉三郎は「最初は(仁左衛門が)『イヤだイヤだ』と言っていた」と明かし、仁左衛門も「(初めて演じたのは)27歳かな? まだ演じるのは無理だと思ったんだけど、喜の字屋のおじさん(=玉三郎の養父・十四代目守田勘彌)が「若い間に恥をかけ」と言ってくださって、やらせていただいたんです。『鬼門の喜兵衛』もそうで『イヤだ』って言ったのをおじさんが『やれ!』って(笑)。おじさんから受けた影響は非常に大きかったですね」とそこから役の幅が広がっていったとふり返る。 若い頃から、互いに強く意見をぶつけ合うようなことはほとんどなかったというが、いまの年齢になって感じる関係性の変化を尋ねると玉三郎は「お互いを思いやる気持ちが多くなったんじゃないか? 若い時分は、ぶつかりはしないけど『あれがしたい』『これがしたい』というのがあるんです。でも、この歳になったら『何ができるか?』『何をやりたいっておっしゃるか?』と気持ちに寄り添うところが大きい。いまは『ふたりでどれだけのことをできるか?』という時期に入ったんだと思います」と語る。 仁左衛門は、玉三郎との相性のよさについて「説明できないですね。なんとなくです(笑)。こういう雰囲気になれるのは、大和屋さん(玉三郎)しかいない。私にとって大切な存在です」と語り、ふたりで演じる『湯島境内』に向けて「いまの私たちを見ておいていただきたいです。半世紀以上、コンビを組ませていただいて、お客様が喜んでくださる――これは本当にありがたいことです。残念ながら体力的に衰えていく、いつまで続くか、いつまでご支持いただけるか不安でもあり、そうならないように頑張らないと……という励みにもなります。刹那、刹那を大事に生きていき、その瞬間、瞬間を見ておいていただきたいです」と静かに意気込みを口にした。 取材・文:黒豆直樹 <公演情報> 歌舞伎座「錦秋十月大歌舞伎」 【昼の部】11:00~ 一、平家女護島 俊寛 二、音菊曽我彩 稚児姿出世始話 【夜の部】16:30~ 一、権三と助十 神田橋本町裏長屋 二、婦系図(おんなけいず) 本郷薬師縁日 柳橋柏家 湯島境内 2024年10月2日(水)~10月26日(土) ※9日(水)、17日(木) 休演 ※昼の部:10日(木)、22日(火)、23日(水)/夜の部:10日(木)は学校団体の来観あり 会場:東京・歌舞伎座