小さな独房で「人間缶詰」に…女性への酷い拷問が続くイランと日本社会の「そっくりな点」
独房に閉じ込め、照明を操作して昼夜の感覚を奪い、睡眠パターンを妨げる。あらゆる身体的感覚を遮断された者に感じられるのは、独房のコンクリートの硬さ冷たさと、ごわごわで不潔な毛布の感触だけ。これが「白い拷問」です。両手を伸ばせば届きそうに小さな独房に閉じ込められたさまは、まるで「人間缶詰」のよう――。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ…」母の再婚相手から性的虐待を受けた女性 ナルゲス・モハンマディ著『白い拷問』翻訳者によるブックレビューをお届けする。
イランという国
日本に住むほとんどの人は、「白い拷問」を体験したことはないでしょう。「人間缶詰」になったこともないでしょう。本書を訳していて、私もその言葉のインパクトに驚きました。 著者ナルゲスさん、獄中インタビューに応じた女性たちと自分の年齢が近いこともあり、生まれる場所が違っていれば自分もこういう目に遭っていただろうか、と翻訳を進めながら何度も息が苦しくなりました。 欧州に住んでいた幼少期のイラン人のお友達を思い出し、連絡先も分からない彼女のその後が心配でたまりません。私がイランについて知っているわずかな事柄は、そのお友達の家に遊びに行ったとき、芳しい香りがしたことと、お母さんから熱烈なキスを浴びたことで、おかげでイランに対するイメージは「愛情深い人が住んでいる、(行ったことはないけれど)良い匂いの国」という子どもっぽい印象のまま更新されませんでした。 大人になってから、イスラム原理主義の国であることや9.11テロ後に悪の枢軸と名指しされたことを知っても、あの家庭の雰囲気とあまりにかけ離れていたため結びつかなかったのです。
イラン社会と日本社会に共通するもの
本書を訳す過程で、子どものときの印象が正しかったと確信しました。イラン人は家族を愛し、我が子の幸せを心から願う、当たり前ですが他の国の人たちと何ら変わらない人々です。 ではなぜ普通に暮らしている女性が政治犯・思想犯とみなされ、このような目に遭うのでしょう。 イスラム原理主義だから? 特殊な政治体制だから? それも理由のひとつではあるのですが、著者や証言者の一人が言うように、女性に対して抑圧的な空気が体制によって強化されているという指摘が的を射ていると思います。宗教の倫理規範ではなく抑圧の装置としてヒジャブが強要されている、あるいは女性が家族のケアの主な担い手で従属的な立場に置かれている、つまり宗教とは関係のない理由で女性が押さえつけられているのです。これは……どこかの社会とそっくりではないですか?