自転車と農業、二刀流で「ツール・ド・九州」に挑む…43歳のプロ選手「スピードや風圧で迫力を」
自転車の国際ロードレース「ツール・ド・九州」の第2回大会が11~14日に福岡、大分、熊本の3県を舞台に開かれる。出場者の中には農業にも取り組む異色のプロ選手がいる。福岡県を拠点とするチーム「VC FUKUOKA」の向川尚樹選手(43)。向川選手は「スピードや風圧で迫力を感じられる競技の魅力を知ってもらえる機会。全力を尽くす」と意気込んでいる。(小川晶弘) 【写真】栽培する大根を前に「大きく育ってほしい」と話す向川選手(9月26日、北九州市門司区で)=小川晶弘撮影
大阪府河内長野市の農家に生まれた。子どもの頃から自転車好きで、高校入学頃に読んだ自転車競技を題材にした漫画がきっかけで、主人公と同じロードバイクを購入し、地元のクラブチームに参加。競技にのめり込むようになった。
高校2年時に大阪で開かれる国体に出たいと大阪府自転車競技連盟に問い合わせると、強化合宿への参加を提案された。「自分が通用するのか、どれだけ速い人がいるのかわくわくしながら参加した」と振り返る。その後、大阪府出身で1996年のアトランタ五輪に出場した安原昌弘さん(61)と練習するなどし、必死にペダルをこぎ続けた。
プロとなったのは2006年。大会での上位入賞を目指し、練習に打ち込む生活を続けていたが、30歳を過ぎたあたりから引退後の生活も見据え、耕作放棄地になりつつあった父親の農地で小松菜などの葉物野菜を生産する兼業農家になった。
プロとなって以降所属していたチームとは2020年に契約が切れたが、現役への意欲は衰えず、21年から現在の所属チーム「VC FUKUOKA」に加入。合宿やレースのたびに家族と住む河内長野市とチームの拠点となっている福岡などを行き来する日々を送ってきた。
しかし、今年7月に家族と離れ、北九州市門司区に移住した。メインスポンサーの物流会社「福岡トランス」が取り組む耕作放棄地再生プロジェクトの一員として、同区の畑で大根やカブなどを栽培し、福岡県や佐賀県で行うチーム練習にも参加するためだ。「農業も練習も思い切りできる」と語る。佐藤信哉監督(46)は「農業との二足のわらじは大変だと思うが、しっかり自己管理してパフォーマンスを維持しており、チームも引っ張ってくれている」と評価する。