下平V長崎 激闘の1年に幕 開幕直前に監督就任、選手の声に耳傾け…
悔しさに包まれるスタジアムのピッチで、下平隆宏監督(52)は泣き崩れる選手たちに歩み寄り、一人一人を力強く抱き締めた。続投が決まっていた前監督の二重契約問題に揺れ、指揮官不在に陥ったV・ファーレン長崎の“救世主”となって1年。緊急登板で3位という十分な結果を残しながら、昇格プレーオフ準決勝敗退に終わり、「積み上げてきたものが出せなかった。敗戦を深く受け止めている」と無念さをにじませた。 J2大分を率いていた昨季。シーズン終了直前に退任が発表され、次のオファーを待っていた。昨年12月、V長崎前監督の、ブラジル名門クラブとの二重契約問題が報じられた。大分時代から対戦相手として、その可能性を感じていたV長崎。代理人に「長崎を率いてみたい。聞いてもらっていいですか」と逆オファーを持ちかけた。当初はヘッドコーチとしてチームづくりに着手し、開幕前に正式に監督に就任した。 当然、チーム編成は前監督の意向で進んでいた。選手補強やコーチ陣の選任、強化スケジュールに全く関わることができなかったが「選手層はJ2屈指。ポテンシャルを考えるとJ1にいないといけない」と泣き言は言わなかった。1月の始動日からチームの先頭に立ち、攻守の約束事、勝つための戦術を植え付けた。選手との対話も大事にして、意見に積極的に耳を傾けた。1年間を通して、その姿勢はぶれなかった。 鍛え抜いた体に反して人当たりは柔らかく、記者会見ではどんな質問にも真摯(しんし)に答えた。夏にはアキレス腱(けん)を断裂する大けがを負ったが、ピッチに立って指揮を執った。 昨季終了後に一度は契約満了でV長崎を離れた主将の秋野央樹(30)は、下平監督の要望で再契約を結んだ。J1柏のユースチームで師弟関係だった2人。「運命を感じている。下さんがいなければ自分はここにいない。感謝しかない。だからこそJ1に昇格して男にしたい」。選手に慕われる指揮官だ。 昇格はできなかったが、「素晴らしい選手が集まり、まとまりがあるチームだった」と1年を振り返った。「この反省を来季以降につなげていきたい」と続投に意欲を見せた。