オープンイヤー型がTWS好きの趨勢となるか? 2024年のオーディオ&ビジュアル事情
昨年は、コロナ禍の影響が完全に払拭されて、オーディオビジュアルの世界でも様々なトレンドが急速に誕生してきた。まず、TWS(完全ワイヤレスイヤホン)が主流となったイヤホン・ヘッドホンの世界では、各社から耳を塞がない“オープンイヤー型”と呼ばれるTWS(やネックバンド型イヤホン)が登場。骨伝導イヤホンを代表とする“ながら聴き”の本命へと躍り出てきた。 オープンイヤー型の弱点を克服したJBL『Soundgear Sense』 というのも、オープンイヤー型には周りの音が聴こえる実用性とともに、耳を塞がない快適さを持ち合わせているからだ。唯一、音漏れしてしまうのが弱点だったが、JBL『Soundgear Sense』では、逆位相の音を活用することで音漏れを最小限に抑え込んでいる。さすがに混んでいる電車内などでは無理だが、屋外でも充分利用できるレベルに達している。 ちなみに、骨伝導イヤホンも実際にはかなり音漏れしてしまうので、人によってはベストなサウンドが得られにくい(特に低音の量感が不足しがち)のが実情。骨伝導よりも、誰もがほぼ同じ音を感じられるオープンイヤー型のほうが今後は好まれていくことだろう。とはいえ、骨伝導イヤホンの主要メーカーであるSHOKZなどは、音質や使い勝手の面で画期的な製品を生み出してくる可能性もある。そちらも大いに期待したいところだ。 いっぽう、ポータブルオーディオ製品の主流となったTWSも、昨年度にいくつかの潮流が垣間見られた。まず、アップルとソニーが牽引役となった”空間オーディオ”は、Dolby Atmosからスマートフォンメーカーオリジナルのものまで、いくつかのメーカーから多様なシステムが提案され始めている。とはいえ、現状のそれらはメーカー同士での互換性がない「エコシステムという名の囲い込み規格」場合も少なからず、システム的には以前からあるバーチャルサラウンド(ステレオ音声を擬似的に3Dサラウンド化する技術)の現代版であったりと、(アップルとソニー以外は)まだまだ発展途上という段階なので、製品選びの際にまだ重要視する段階ではないだろう。 逆に、TWSのなかで最も画期的だったのがJBLの最上級TWS『Tour Pro 2』であった。こちらは音質面でもメリハリのよい躍動的なサウンドが好評だが、なによりも専用ケースに採用されたタッチパネルが画期的。スマートフォンをいちいち取り出さなくても、音楽再生や停止はもとより、ANC(アクティブノイズキャンセリング)やサウンドモードの変更、空間オーディオのオンオフなど、多彩な機能を使いこなすことができる。とても便利なうえ、このタッチパネルの真骨頂はスマートフォン以外、パソコンやゲーム機などと接続したときに発揮する。 対応アプリの用意されていない製品との接続の際は、イヤホン本体での操作に限られてしまい、基本的な機能以外は使うことができなかったが、専用ケースにタッチパネル操作が付属したことで、どんな機器とBluetooth接続しても多彩な機能を使えるようになってくれた。これは汎用性の高さという意味で、圧倒的なアドバンテージといえる。そして2024年、JBLはCES会場でミドルクラス製品にも専用ケースのタッチパネル化を押し進める旨をアピールした。まだまだ他社が追従できない独自技術を推し進め、アップル、ソニーと並ぶ存在になるかもしれない。2024年のJBLには大いに注目したい。 いっぽうで、TWSは高級モデルの展開も興味深い。HIFIMAN『Svanar Wireless』は、独自のR2R方式DACをTWSに詰め込んだ製品。さらに、高級有線イヤホン「Svanar」で培ったノウハウを投入することで、ワイヤレスイヤホンとは思えない良質なサウンドを実現している。また、B&Wやデビアレなども音質重視の高級モデルを用意し、一昨年発売ながらオーディオテクニカのフラッグシップTWS「ATH-TWX9」も高い人気を保ち続けているので、音質重視派はこういった製品もチェックして欲しい。また、TWSに関しては、中華ブランドの躍進も著しい。中華TWSといえばいまだ“安かろう(音や機能が)悪かろう”というイメージを持っている人がいるかもしれないが、ここ最近は“ミドルクラスの価格でハイエンド並みの機能”を持つ製品が続々登場、大いに注目を集めている。 たとえばANKER『Soundcore Liberty 4 NC』やSOUNDPEATS『OPERA 05』、EarFun『Air Pro 3』は、高性能なANC機能を搭載すると同時にLDACやaptX Adaptiveなどの高音質コーデックに対応するなど、機能性と音質の両面で進化を押し進めている。この機能性で1.5万円前後という実売価格は驚きに値する。 さらに2023年末以降はもうひとつふたつ下の価格帯、1万円前後~1万円未満でも注目に値する製品が登場してきた。高機能ANCやaptX Adaptive対応を謳うEarFun『Free Pro 3』やSOUNDPEATS『AIR4 PRO』、デュアルANCを搭載するKTANCHJIM『MINO』、シングルANCながらJポップと相性のよい音色や独自デザインの専用ケースをもつ水月雨『Space Travel』など、機能や個性の面で注目に値する製品も増えてきた。 もちろん、この価格帯に位置するジャパンブランドにも注目すべき製品が幾つかある。オーディオテクニカ『ATH-SQ1TW2』は可愛らしいデザインとともにイヤホン本体の小ささや装着感のよさ、そして何よりも音質的な聴き心地のよさで大いに魅力的だ。他にもTWSを得意とするAVIOTやJVCからも、2024年は様々な製品が登場してくるだろうから、これらのメーカーにも注目したい。 もうひとつ、上級クラスのヘッドホンについても今年は期待できそうだ。年末、水月雨から『楽園-PARA』という平面磁界駆動型ヘッドホンが登場したが、こちらは、100mmユニットの振動板全体をメタルプレーティングすることで、全体が均一に駆動するという画期的な仕組みを採用。クリアで抜けのよい、それでいて鋭すぎずザラつかず、ダイレクトなのに聴き心地の良いサウンドを聴かせてくれた。セパレーションのよさ、音場の広さも素晴らしい。これで5.5万円前後の価格設定だというのだから恐れ入る。こういった音質重視(かつ手頃な価格)のヘッドホンが2024年に各社から登場予定なので、個人的にこれらの新製品にも期待している。 なお、映像機器に関しては、4つの潮流に注目したい。ひとつは液晶テレビの低価格化。もうひとつはOLEDの普及。そしてテレビからモニターへの広がり。最後に、プロジェクターの進化だ。液晶テレビの低価格化は、みなさんもご承知のことと思う。年末商戦では、スタンダードクラスの55インチモデルで、5~6万円のプライズタグが付けられているなど、驚くべき低価格化が進んでいる。いっぽうでミニLED採用モデルなど、映像美重視の新製品もいくつか見られたが、ひと昔前に比べて驚くべき低価格であることには間違いがない。いまや大型液晶テレビは気軽に購入できる製品となりつつある。 しかしながら「液晶テレビの低価格化=買い」かといわれると、ケースバイケース、といわざるを得ない。というのも、同時にOLED、有機ELテレビの低価格化も進んでいるからだ。こちらも、50インチサイズであれば10万円台で購入できるようになってきており、スタンダードクラス液晶テレビの倍の価格とはいえ、出費はたかがしれている。5年以上、場合によっては10年ほど使い続けるテレビなので、液晶に対し映像表現において確実なアドバンテージを持つ有機ELを選ぶのも賢い選択といえる。このあたりは、利用するシチュエーション次第だろう。 そして、チューナーレステレビを選択するというのもひとつの方法論になってきている。昨年、Xiaomiがauと組んで販売をスタートさせたGoogle TV「Xiaomi TV A Pro」が話題となったが、Google TVやAndroid TVなどのチューナーレスTVは、これまでもいくつか販売されており、高い注目度を集めている。テレビを見ない人が増えている昨今、チューナーレスTVで充分というニーズも確実にあるし、液晶テレビの低価格化をふまえると、大画面PCモニターよりもお買い得感があるといえる。2024年はこういった状況がさらに進んでいくだろうから、何を見たいか、何に使いたいかなど、シチュエーションに合わせたディスプレイ選びを推奨したい。 最後にプロジェクターだが、2023年は中国勢の躍進が顕著だった。そのなかでもBenQは、ゲーミングやポータブルなどユーザビリティに配慮された個性的なモデルがいくつも登場。大いに注目を集めることとなった。いっぽうで、ジンバル構造を採用し自動設定と合わせていつでもどこでも手軽に映像が楽しめるJMGO『N1』シリーズや、レーザーとLEDをハイブリッド活用することで明るさと色合いのよさを両立させたDolby Vision対応の4KプロジェクターXGIMI『HORIZON Ultra』、シーリングプロジェクターという新提案により圧倒的な人気となったAladdin Xからは内蔵スピーカーの音質にもこだわったポン置きで使える超短焦点モデル『Aladdin Marca』など、明るさ、映像クオリティ、使い勝手の面で大きく進化。ホームシアター向けのマニアックなイメージが強かった家庭用プロジェクターが、一気にカジュアルな存在となってくれた。 いっぽう、バッテリー搭載のポータブルプロジェクターも質、使い勝手の両面で着実な進化が推し進められている。たとえば2023年秋に登場したBenQ『GV31』は、ベースとなった『GV30』に対して、天井投写が気軽におこなえる回転構造はそのままにフルHD化。加えて、台座が落ちない、USB-Cからの充電が可能になるなど、使い勝手の面でもグレードアップが施されている。大きな進化と小さな進化が並行して進み、同時に新興メーカーも次々に登場。なかなか、今日も深いジャンルとなってきている。電源コードいらず、Android TV搭載など、テレビよりも手軽に映像が楽しめる機器として今後の動向に注目したい。 このように、オーディオ&ビジュアル製品も「コンテンツを存分に、かつ複雑にならずに手軽で楽しめる」ことが昨今のキーポイントとなっており、実際の製品も(好評を博しているものは)そういった方向に進化を押し進めつつある。コンテンツとユーザーを大切にしてくれる製品作りは嬉しいかぎり。2024年は、どんな製品が登場してくれるのか、期待したい。