中国の若者世代 「自由」求めタイに移住
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【3月4日 AFP】タイ北部チェンマイ(Chiang Mai)の木々に囲まれたテニスコートで、コニー・チェンさん(26)はプライベートレッスンを受けている。中国・上海に住んでいた頃にはとてもできなかったぜいたくだ。 中国は新型コロナウイルスの流行時に世界で最も厳しい対策を講じ、数億人が長期間ロックダウン(都市封鎖)下に置かれた。その結果、過酷でやりがいのない仕事に疲れた若者が、国外に脱出するようになった。 タイ第2の都市チェンマイが、そういった中国人の人気の地となっている。期間1年の学生ビザ(査証)が取りやすく、ペースがのんびりしていて、生活費も安いのが理由だ。 チェンさんは、ロックダウンが最も厳しかった都市の一つ、上海で銀行に勤めていた。安定していて、給料も良かったが、将来のキャリア形成に不満を抱いていた。 「パンデミック(世界的な大流行)の間に自由を求める気持ちが強くなった」と話す。 チェンさんのような若い世代は、高度成長の恩恵を受けた親世代と異なり、景気低迷の重荷を背負わされている。 昇進の見込みは薄く、競争は激しい。燃え尽きてしまう人も多い。 チェンさんは外国語コースを調べ、タイに決めた。昨年5月、1年の学生ビザを取得し、夫のゴードン・リン(32)さんと共に移住した。 二人とも今では長期間、外国に住むことを決めている。「国外には機会も多く、希望も感じる」とチェンさんは語った。 上海ではロックダウンに抗議するデモが発生した。中国ではデモはまれだが、すぐに他の主要都市に拡大し、政府は取り締まりに乗り出した。 今回取材した中国人は政治に関する発言は控えたが、全員が中国とは異なるライフスタイルを追求したかったのが移住の動機だと話した。 ■「尊厳ある生活」 中国の通信アプリ、微信(ウィーチャット)をのぞくと、国外への脱出願望の高まりが見て取れる。 中国語メディアによると、「移住」という単語は昨年10月、1日当たり5億1000万回検索された。また、昨年1月末には「タイ移住」という言葉が1日に30万回以上検索されたという。 タイには各種の長期滞在ビザがあり、欧州や北米よりも移住しやすいとされる。1年間の語学コースの費用は約700~1800米ドル(約11万~27万円)で済む。 「中国脱出願望は急に広がったと考えている」。ドイツのマックス・プランク社会人類学研究所(Max Planck Institute for Social Anthropology)に勤務する社会人類学者のシャン・ビャオさんはこう指摘した。 タイは外国生活を試すのに理想的な国だとみなす中国人が増えたと言う。 また、中国とビジネス上のつながりを維持したままの人が多かった1990~2000年代に比べると、完全に縁を切りたいと考える新たな傾向が認められると、シャンさんは語る。 そうした人々は教育を受けてはいるが、必ずしもエリート層でも富裕層でもない。 シャンさんは「彼らは国際人で、偏見がなく、基本的に自由を大切にしている。必ずしも政治的な自由というわけではなく、そこそこの、尊厳ある生活をしたいと考えている」と話す。 これまでの世代とは異なり、海外で財を成すことは求めていないという。 チェンさんの夫リンさんは、電子商取引の会社に勤めていた。一生懸命働き、貯金をし、早期退職を計画していた。しかし、紋切り型の周囲の考え方に息苦しさを感じるようになった。 「良い大学に行き、公務員など良い働き口を見つけたいという考え方ばかりだった」 チェンさんとリンさんは、タイで貯金を取り崩して生活しながら、次はどうするかを模索中だ。 ■蜜月の終わり イン・ウェンフイさん(31)は、タイを去る時が近づいている。 パンデミックの最中に中国国境で足止めされた後、タイに入った。数か月たつと、帰国して仕事にすべてをささげるよう絶えず圧力を掛けてくる家族や同僚と顔を合わせるのが嫌になった。 ウェンフイさんはAFPに対し「ここにいると自由な気持ちになる。中国ではやりたいことができなかった」と語った。 仕事に没入していた中国時代とは打って変わって、チェンマイでは友人たちとホステルを運営しながら、毎日ジムに通い、料理も習う。子どもの頃からの夢で、当時は親に許してもらえていなかったギターも習っている。 「考える時間もある。どんな人生を送りたいのかを考えている」 ただ、蜜月は終わりつつある。のんびりしたペースにいら立つようになり、次の段階を準備している。 「文化や仕事、収入の面で中国やチェンマイを上回る先進国に行ってみたい」と、ウェンフイさんは語った。 映像は2023年10月に撮影。(c)AFPBB News