齋藤飛鳥、家族を守るために父を追うジレンマ…正義感の強い刑事役を自然な“セリフ回し”で体現<マイホームヒーロー>
「あなたにとってのヒーローは?」と聞かれたら、誰を思い浮かべますか? 戦隊ヒーローだったり、仮面ライダーだったり、ウルトラマンだったり、スーパーマンだったり、ダンシング・ヒーローだったり…それは曲か。もちろん身近な人物を思い浮かべる人もいるだろう。7月12日に配信が始まった「映画 マイホームヒーロー」が指す“ヒーロー”は、“我が家のヒーロー”である父親。スパイダーマンでもアイアンマンでもないサラリーマンが主人公だ。とはいえ彼は正義感が強いわけでも、ケンカが強いわけでも、超能力があるわけでもないごくごく平凡な人物。その武器はクモの糸でも、パワードスーツでもなく、推理小説で培った知識と家族愛。そんな平凡なヒーロー・鳥栖哲雄を、非凡な才能を持つ俳優・佐々木蔵之介が絶妙なあんばいで演じている。今回はそのヒーローが人生を懸けて守った娘・零花を演じる齋藤飛鳥にスポットを当てつつ、主観を交えて「映画 マイホームヒーロー」の魅力を紹介する。(以下、ネタバレを含みます) 【写真】アイドル時代からアイドル屈指の“小顔”で有名だった齋藤飛鳥の小顔が際立つ全身ショット ■「マイホームヒーロー」とは 2023年10月期にドラマ版が放送・配信された「マイホームヒーロー」(TBSほか)は、2017年より「ヤングマガジン」(講談社)で連載された山川直輝(作)と朝基まさし(画)による同名コミックを実写化したノンストップファミリーサスペンス。ある日、娘の零花を守るために、その彼氏を殺して“殺人犯”になった平凡なサラリーマン・鳥栖哲雄が、推理小説で培った持ち前の知識と家族愛を武器に冷徹で残忍な闇社会の犯罪組織と闘っていく姿を描く。ドラマの続編となる「映画 マイホームヒーロー」は2024年3月に全国の劇場で公開され、このほどドラマ版も配信中であるディズニープラスのスターで配信が始まった。 劇場版では、ドラマの7年後を舞台に完結編が描かれる。半グレ犯罪組織「間野会」との攻防を経て、平穏を取り戻したかのように見えた鳥栖家だったが、7年後、土砂崩れによって哲雄が山中に隠していた娘の彼氏の父で、間野会の幹部・麻取義辰(吉田栄作)の遺体が発見される。そして哲雄は死体とともに消えた10億円を探す間野会から再び狙われ、捜査に乗り出す警察からも追われる身に。そして父の罪を知らずに刑事になった零花は、事件の真相を追っていくうちに、父の罪と向き合うことになる――。 主演の佐々木はもちろん、高橋恭平(なにわ男子)、齋藤、木村多江らドラマキャストが続投するだけでなく、今作から新たに声優の津田健次郎をはじめ、宮世琉弥、立川談春、板倉俊之(インパルス)、大東駿介、西垣匠、金子隼也といったキャスト陣が登場。特に間野会のトップ・志野を演じる津田の演技はあっぱれだ。いかにもな「凄み」をきかせて恫喝するだけでなく、冷静で丁寧な口調の端々に隠しきれぬ脅威と狂気をにじませる。“イケボ日本代表”の津田が演じるからこそ、電話のシーンだけでもそれらがヒシヒシと伝わってくる。そんな津田と佐々木が対峙(たいじ)する場面は、まさにぜいたくの極み。至福の演技バトルだった。 そして今回の劇場版の肝は「なんだかんだいつも私を守ってくれた気がする。今度は私が守らなきゃ」と父への思いを口にしてから7年、守られる少女から、守る立場の刑事になった零花がやがて父の罪を知り、どう向き合うのかというところ。自分を守るために彼氏を殺し、その後もそれを隠すために罪を重ねてしまった父を自分が追うことになろうとは、刑事を志した時には思ってもみなかったはず。人一倍正義感が強く、家族団らんの席で宣言した「犯罪者はどんな理由があっても、私は絶対許さない」という言葉が非常に強烈だ。横で聞いていた哲雄には痛切に響いたことだろう。哲雄にとってもボタンの掛け違えがなければ、マイホームヒーローというよりただのマイホームパパの人生で終わるはずだった。ほんの少しのズレでこうなるのだから、人生は恐ろしい。 ■齋藤飛鳥の自然体な演技に脱帽 そんなストーリーの妙もさることながら、この作品で際立っていたのが齋藤の演技。休憩中は部屋の隅で一人読書をするくらい控えめでも、ことステージに立つと圧倒的な存在感で輝きを放つ国民的アイドルだったのは誰しも記憶に新しいところだろうが、演技のフィールドでもまばゆい輝きを放っている。特筆すべきは、驚くほど自然体でその役に寄り添い、演じるキャラクターを体現する力があるところ。アイドル時代には冠番組で“ダンス七福神”に選ばれたことがあるほどダンスに定評があり、特に“模範的”なダンスをすることで知られているが、演技もある意味模範的。 映画やドラマで「いかにもセリフしゃべってるなあ~」感が出てしまうと、どれだけビジュアルが良くても、どれだけ内容が興味深くても興醒めしてしまうというか、“入ってこない”。その点、齋藤は「これってセリフなの?」と錯覚するくらい、自然にセリフを発している印象。もちろん齋藤の素を全部知っているわけではないのだが、ものすごく素で話しているように見えて全く違和感を覚えない。これは役者としての武器だと思う。表現として合っているかは分からないが、セリフを放つ時の言葉の温度に無理がない。セリフ回しという点に限って言えば、いわゆる演技派俳優と言われる人たちにも決して引けを取らない、と個人的には思う。だからこそ佐々木や木村ら演技巧者と並んでも何ら違和感がないし、演じる零花の「犯罪者は許せないし、家族を守りたい。でも父が犯罪者なら止めたい、止めるということは…」というジレンマがストレートに伝わり、見る者の心を深く揺さぶる。 完成披露試写会で両親役の佐々木&木村が齋藤の演技を絶賛していたのもうなずけるし、“親バカ”は抜きにしても、齋藤の演技についてメガホンをとった青山貴洋監督が「涙のシーンを見て、自分自身も撮っていて泣いてしまったんです。そのシーンを撮っていたカメラマンが、そのシーンを撮り終えてカットをかけなかったら、芝居に引き込まれ過ぎてレールから落ちちゃってました」と語っていたのも納得。それほど周囲の人間を引き込み、のめり込ませるのだ。 今作の初日舞台あいさつで「7年たっても変わらずに家族のことをすごく大事にしている。未熟なところがあっても一貫して愛を大事にしている零花ちゃんの姿はすごく私にはかっこよく映りました」と、演じる零花への思いを語っていた齋藤。「零花ちゃんのようになりたいなと思いながら演じていた節もあったので、すごく大切な役・作品になったかなと思います」と話したように、役者として大きな刺激を受けたことをうかがわせる。 これだけの美貌と才能、人気があれば「齋藤さんだぞ」と肩で風を切って歩いても許されそうだが、本人はそれをひけらかすこともなく、控えめに淡々と地に足を着けて歩いている。そんなところも実に自然体で、男女問わず支持される理由だろう。Instagramでさりげなく載せるプロ級の料理や光るセンスのファッション。「#さいとうあすかめし」「#さいとうあすかふく」といった独特なハッシュタグからも肩肘張った感じはなく、気の向くままに楽しんでいる様子が伝わってくる。 本人の性格的にガツガツいくことはないのかもしれないが、どんどん新しい作品に出て、いろいろな「#さいとうあすかえんぎ」を見たいのは私だけではないはず。朗報としては11月より実写ドラマ&映画化が決定している「【推しの子】」にアイ役で出演すること。先行解禁ビジュアルで既に再現度の高さは見て取れるが、やはり彼女の魅力はビジュアルだけではない。完璧にアイを体現し、違和感なくセリフを口にする姿を楽しみに待ちたい。 ◆文=森井夏月