【ヤクルト】奥川恭伸「宿命」を燃やした980日ぶり復活勝利、夏準V相手履正社の吹奏楽部も来場
<ニッカンスポーツ・コム/プロ野球番記者コラム> 甲子園が取り持った、ドラマのような一戦だった。 今月14日に京セラドーム大阪で行われた日本生命セ・パ交流戦のオリックス-ヤクルト戦。ヤクルト先発の奥川が、980日ぶりの勝利を挙げた。2022年3月に右肘痛を発症し、そこから左足首骨折、腰痛と相次ぐ故障に苦しんできた23歳が、やっと1軍のマウンドに戻ってきた。ヒーローインタビューで涙にくれた姿とともに、Official髭男dismの大ヒット曲「宿命」が記憶に残った。 「宿命」は、奥川の本拠地・神宮での登場曲。そのメロディーがオリックスの攻撃回の終わりに場内に流れ、ヤクルトファンを驚かせ、喜ばせた。ヤクルトファンにとって、懸命に投げる奥川を支える“応援歌”にも聞こえたのだろう。SNSには、オリックスへの感謝の声も上がった。 実は、オリックスの人気イベントと奥川の復帰が重なったことが発端だった。オリックスは14日から3日連続で特別イベント「大阪代表バファローズ高校(2年連続3回目)」を開催。14日は履正社(大阪)、15日は明石商と明石南の兵庫勢、16日は大阪桐蔭の吹奏楽部が来場し、試合前のグラウンドで演奏。試合中は私設応援団とともに特別応援を行うイベントが、ヤクルト3連戦で実施された。 球団はさらに甲子園色で盛り上げようと、ABCテレビ「熱闘甲子園」のテーマソングをイニング間に流した。初日の14日に選んでいたのは、エース奥川が星稜(石川)を準優勝に導いた19年のテーマソング「宿命」。奥川が引き寄せたような巡り合わせとなった。 試合も劇的だった。序盤で4点ビハインドを背負ったオリックスが、4回の杉本の豪快な今季1号弾から猛追。一時は1点差に迫るも、ヤクルトが一丸の守りではね返した。8回1死一塁で杉本の三塁線を破るかと思われた打球も、三塁・村上がダイビングで抑えて内野安打で止めた。三塁線を抜けていれば二塁走者は本塁にかえり、この日の先発・奥川の勝ちは消えていた。 追い上げ及ばず敗れたオリックスにとっては悔しい試合になったが、結果を別にして、球団関係者は「甲子園のスターだった奥川選手が復活して1軍のマウンドに戻ってきたことは、球界にとって明るいニュースです」と語った。相手球団ながら3年前の日本シリーズ開幕戦で好投した右腕の才能を重んじ、復活を祝福する言葉だった。 試合内容といい、球場を覆った雰囲気といい、その日、その場に居合わせたことを幸運と思える。6月14日は、そんな日になった。【堀まどか】