「福島大の練習、エグイな…」男子選手も驚愕…なぜ“福島の国立大学”が女子スプリント界を席巻できた?「毎日がナショナルチーム合宿のようで」
レース後、「競技場で倒れたことがない」理由は?
現役時代の千葉にはちょっとした誇れることがあった。 「試合が終わってから競技場で倒れたことがないことが唯一の自慢です」 試合ではもちろん、どんなにつらい練習の後でも、人の目に付くところで倒れ込むことはしなかった。 「チームメイトもみんなライバルなので、弱いところを見せてはダメだって決めていました」 そんな信念があったからだ。 「自分が負けた気がするので」と、チームメイトに弱音を漏らすこともしなかった。 インタビューに答える千葉の口調はおっとりしているが、その口から飛び出すエピソードの数々からは、負けん気の強さを垣間みることができた。だからこそ、日本の第一人者に上りつめることができたのだろう。 「400mはメンタルがかかわってくる種目です。『ちょっと無理かも』とか『きついな』と思った瞬間に走れなくなる種目だと思うんです。自分はマイペースな性格なので、辛い練習もあまりストレスになりませんでした」 こう話す千葉のメンタルの保ち方も独特なものだった。それは競技場を一歩出たら「チームメイトに絶対に会わない」ということだ。 福島大の陸上部には寮はなかったが、多くの部員が同じアパートに住んでいた。だが、千葉はそこから少し離れたところにアパートを借り、グラウンド外では誰にも会わないようにしていた。チームメイトに食事などに誘われても断るという徹底ぶりだった。 「自分1人の時間を必ず確保することは徹底していました。チームメイトと一緒にいると、どうしても陸上のことを考えてしまうので、オフは必ず1人で過ごし、自由にダラダラ過ごしていました。そうすることで、自分で心のコントロールがうまくできていたんだと思います」 このオンオフの切り替えのうまさが、試合で爆発的な力を発揮できる要因でもあった。
男子選手が合宿で「福島大の練習、エグイな…」
もちろん川本監督が彼女たちに課す練習も相当厳しいものだった。 「福島大の練習、エグイな……」 沖縄で合宿を行っていた際に、他大学の男子選手に驚かれたことがあったという。 「自分たちには毎日それが普通だったのですが、その時に『すごいことをやっているんだ』と実感しました」 福島大には、千葉が今なお忘れることのできない地獄の練習メニューがあった。その名も『サバイバル40秒走』。 「“サバイバル”というのはイメージが良くないということで、川本先生は“サバイバル40秒走”から“ステップアップ40秒走”に呼び方を変えていたんですけど、私たちにとってはずっと“サバイバル”でしたね」 その練習は、4~5分の休憩を挟みながら、40秒で走れる距離を徐々に伸ばしていくというものだ。1本目は40秒間で200mなのでゆっくりだが、2本目は210m、3本目は220m、4本目は230mと10m刻みで距離を伸ばしていくので、必然的にペースが速くなる。さらに、230m以降は5m刻みで距離を伸ばしていき、それをオールアウトするまで続ける。 「冬季練習では1週間に1回ぐらいあるので、その日はつらすぎました」 こんな名物メニューもある一方で、川本監督は、選手一人ひとりに違った対応をしていたという。練習メニューは個別に立て、その日の調子に応じて内容を変えることも多かった。このように、過酷な練習メニューときめ細やかな指導があって、福島大も千葉も日本一へと上り詰めた。 千葉が初めて52秒台をマークし日本記録保持者となってから1年後の2005年6月、さらなる快挙を成し遂げる。 日本選手権で自身の記録を一気に0秒95も更新し、51秒93まで記録を伸ばした。日本の女子選手が51秒台で走るのはもちろん史上初。それどころか、今なお、この領域に達する選手は現れていない。 「予選は最後流して52秒台だったので、決勝は世界陸上のB標準はいけるかもしれないと頭をよぎったのですが、51秒台が出るとは全く思ってもいませんでした。別世界のタイムだと思っていたので、予想以上でした」
【関連記事】
- 【つづき/#3を読む】「ひとりでは無理だと思います」4大会連続五輪出場なし…低迷中の女子ロングスプリント界“最古の日本記録保持者”が語る「世界への壁を崩すには」
- 【写真】「えっ、何頭身なの…?」400mで女子トラック“最古の日本記録”を持つ千葉麻美さん…現役時代の長~い手足とバッキバキの腹筋&引退から8年、39歳になった現在と高校時代の姿も。この記事の写真を見る。(50枚超)
- 【最初/#1を読む】陸上女子トラック「最古の日本記録」はなぜ16年も破られない?…400mで“歴代10傑独占”「ロングスプリント界の至宝」千葉麻美とは何者だったのか
- 【あわせて読む】「最後まで折り合いはつかなかったですね」インターハイ3冠も大学を1年で退学…陸上“歴代最強”高校女王が振り返る「過去の栄光との葛藤」
- 【こちらも読む】田中希実「じつは優勝していない」インターハイ…全国制覇した“同じ高校の天才少女”は何者だった?「中学生で高3生に圧勝」「東京五輪のホープ」