「自衛隊を動員せよ」宇宙開発にこだわった日本財界の黒幕・葛西敬之が官僚と会合を重ねた意外な「場所」
安倍元首相が国士と賞賛した葛西敬之が死の床についた。政界と密接に関わり、国鉄の民営化や晩年ではリニア事業の推進に心血を注ぎ、日本のインフラに貢献してきた。また、安倍を初めとする政治家たちと親交を深め、10年以上も中心となって日本を「事実上」動かしてきた。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ」…性的虐待を受けた女性の「すべてが壊れた日」 本連載では、類まれなる愛国者であった葛西敬之の生涯を振り返り、日本を裏で操ってきたフィクサーの知られざる素顔を『国商』(森功著)から一部抜粋して紹介する。 『国商』連載第5回 『宇宙に核廃棄物を投棄…日本財界最後のフィクサー・葛西敬之が夢想した宇宙開発がヤバすぎる』より続く
国家戦略からみた宇宙開発
第二次政権の安倍は「地球儀外交」を標榜し、世界中の首脳と会談を重ねた。ロシアのウラジーミル・プーチンと27回も会った背景は、北方領土問題もさることながら、宇宙開発が両国にとって重要テーマだったからかもしれない。13年12月6日の宇宙政策委員会で葛西は言った。 「宇宙分野は外交・安全保障と密接に結びついており、国家戦略の観点から海外展開を検討すべきです」 もとはといえば、日本政府における宇宙開発への取り組みは2005年2月、自民党の河村建夫を中心に発足した勉強会「国家宇宙戦略立案懇話会」が始まりだ。 そこから08年5月に宇宙基本法を制定し、予算を計上してきた。補正予算を含め宇宙関連費として2012年度に3316億円の予算を計上、予算は概ね右肩上がりに推移し、22年には5219億円にまで膨らんでいる。
神風に期待するな
それらは葛西たちによる働きかけが大きい。 たとえば14年10月7日の会議で葛西は財政難に陥っている日本政府について言及し、次のように発言している。 「限られた資源の充当をどうするかという問いにわれわれは答えなければなりません。やろうと思えば何でもできるだけのゆとりはない。放っておけばどんどん予算は減る。宇宙予算を増やしていくために、われわれは宇宙開発戦略本部で安倍総理が出していただいた方針に沿わなければいけません。予算が増えていかないと宇宙産業そのものが枯死することになります」 さらにその2年後の16年2月3日宇宙政策委員会ではこう檄を飛ばした。 「財政が厳しくなってくると、もっと民間の活力を、とか何とか言う。しかしあれは『大和魂があれば、戦争に勝てる』というのと似たようなものです。私は民間企業に宇宙開発するようなゆとりはそうはないだろうと思います。それは神風に期待するのとやや似ているような気がする。どうするのだというのを、誰かが決めなければ、日本は進まない」 こうたたみかけた。 「(宇宙)基本計画ができて2年目の現段階で4000億円の予算が確保されました。これを守るのだって結構大変なのではないかと思う。現実的に、これを具体化していくと、コストの要素も変わってくる。さまざまな要素が変動する中で、今の規模を守っていくのも結構大変です。やりながらいろんな状況が変わってくるので、そのときにどう展開するか、お金の話は一旦置いて、議論を進めればいいのではないでしょうか」