離婚が急増する中国である業者のもとに切実な依頼が殺到している理由
中国のあるシュレッダー業者のもとには、切実な依頼が殺到している。風が吹けば桶屋が儲かる──その意外なビジネス展開の現場を、米紙「ワシントン・ポスト」が取材する。 【動画】強力なシュレッダーに額入りのまま飲み込まれていく結婚写真 リュウ・ウェイは、「ラブストーリーの亡骸引受人」を自称する。 北京にある国営の製薬会社での仕事を2022年に辞めて以来、リュウは北京のすぐ南にある廊坊市の工場倉庫で、書類など個人情報のシュレッダー事業を営んでいる。 とくに儲かる商売でもなかったが、昨年、「ブルーオーシャン」(競争のない未開拓市場)を探し当てた。離婚して結婚写真を捨てたがっている、都会暮らしの女性たちだ。 リュウは「ワシントン・ポスト」の取材に対して、死に関わるまた別の比喩を用いて言う。 「われわれは、そうした写真たちのライフサイクルが終わったときの火葬場なのです」 リュウのビジネスの潜在顧客はたしかに多い。2016~2020年、中国では離婚件数が1年に400万件を超えた。 人口減少に直面し、従来型の結婚と子育てを推奨してきた中国政府はこの事態を重く見て、「衝動的」な離婚を抑止すべく、30日間の冷却期間を2021年に義務づけた。そのかいもあって、2021年以来、離婚件数は1年に300万件を下回るまでに減ってきた。 それでも2024年の上半期で、すでに130万組ほどの中国人カップルが離婚している。
完璧な夫婦のイメージどおり行かなかった場合
そこで多くの人が直面するのが、額入りの結婚写真をどうするのか問題だ。なかにはタテの寸法が150センチを超えるものもある。 中国が豊かになり、中産階級が急増してきたこともあり、結婚式前の写真撮影は当たり前になった。カップルは長時間と大金を費やして、衣装やロケーションを何度も変えては、完璧な夫婦としてポーズをとる。 そうやって撮影された写真の巨大バージョンが披露宴会場に飾られ、その後は自宅に飾られる。そしてもちろん、SNS中にも拡散される──。 だが、完璧な夫婦のイメージどおりに行かなかった場合はどうなるのか。 写真をゴミに出すのは、分別ルールが厳しい都市では問題外だし、プライバシーの問題もある。存命の人の写真を燃やすのは、たとえそれが疎遠になった配偶者だろうと、中国の迷信では不吉だ。 42歳で既婚者のリュウは、そうした豪華な写真撮影などしたことがない。だが、彼には解決策がある。中国版TikTok「抖音」(ドウイン)にアップしたプロモーション動画でリュウはこう語りかける。 「写真を送ってもらえれば……完全に、最初からなかったかのように消します」 その動画では同僚たちが、額入りの写真を踏んだり、その上で跳びはねたりして、アクリルやガラス、木材や金属など、耐久性のある素材は自宅で壊すには頑丈すぎる場合もあることを示している。その動画は100万以上のビューがあり、リュウのビジネスは上り調子になった。 いまや写真の破棄がリュウのビジネスの95%以上を占めており、そうした写真の80%ほどが結婚写真だ。その多くはプロの写真家が、遠くはチベットやパリなどのロケーションで撮ったものだ。
Yufan Lu and Lyric Li