『スリープ』ユ・ジェソン監督 3人目の主人公は「結婚」そのもの 【Director’s Interview Vol.416】
ある夜、眠っていたはずの夫が起き上がり、「誰か入ってきた」とつぶやく。幸せだった夫婦生活は、その日を機に一転した。夫・ヒョンスは毎晩眠りながら異常な行動をとり、出産を控えた妻・スジンは恐怖を覚える。2人が精神的に追いつめられていくなか、スジンの母は謎の御札を勧めた。睡眠にひそむ怪異の正体は病か、それとも――。 映画『スリープ』の監督・脚本を務めたのは、韓国の鬼才ポン・ジュノの助監督を務め、本作が監督デビューとなった新鋭ユ・ジェソン。睡眠障害をめぐるスリラー調の家族ドラマに始まり、あらゆる要素とジャンルを含みながら予測不能な結末へと突き進む衝撃の一作だ。パワフルかつエネルギッシュなジャンル映画であり、社会に対する冷静な洞察でもある本作はどのように生まれたのか、創作の背景や師匠ポン・ジュノからの学びを聞いた。
主人公夫婦のモデルは自分と妻
Q:はじめに、この物語を着想したきっかけをお聞かせください。 ジェソン:そもそもの出発点は、夢遊病にまつわる怪談のようなエピソードを聞いたことでした。眠ったままビルから飛び降りたとか、車を運転したとか、隣で寝ている人に危害を加えてしまったとか……。ネット上の記事や友達との雑談などで、そんな話を聞いたことがある方は多いと思いますが、私も大きな衝撃を受けたんです。患者の当事者やその配偶者、家族はどんな日常生活を送っているんだろうかと考えたことが、大きなきっかけでした。 Q:睡眠をめぐる日常的な恐怖がベースにありつつ、物語は予測不可能な方向に転がってゆきます。どのように脚本を執筆していきましたか。 ジェソン:脚本を書き始めたとき、いろんなジャンルをミックスしよう、予想できない展開にしようとは考えませんでした。最初はシンプルに、愛し合っている夫婦の夫が夢遊病にかかり、奇怪な行動を取るようになったとき、2人はどう反応し、どのように乗り越えていくのだろうかという発想だったんです。 主人公であるヒョンスとスジンには、実は私自身と妻を反映しています。この映画を作っていた当時はまだ妻でなく恋人でしたが、「私ならこうする」というところをヒョンスに、「彼女ならこうするだろう」という部分をスジンにあてはめて、物語の前半を少しずつ形にしていきました。
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