サッカー海外遠征に子どもを送り出す親の出費はいくら? 中井卓大を見出した人物が語る、スペイン遠征の魅力と現実<RS of the Year 2023>
WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)、ラグビーワールドカップ、サッカー・FIFA女子ワールドカップ、世界陸上、バスケットボール・FIBAワールドカップ……数々の世界大会が開催され、多くのアスリートの活躍に心揺さぶられる1年となった2023年。一方で、小野伸二さん、石川佳純さん、岩渕真奈さんなど、長く第一線で競技を背負ってきたレジェンド選手たちが現役引退を決意したことも印象的な一年となった。そこで、結果や勝敗だけではないスポーツの本質的な価値や魅力を伝えてきた『REAL SPORTS』において、2023年特に反響の多かった記事を振り返っていきたい。今回は、サッカーのスペイン遠征事業を手掛ける高橋尚輔氏に子どもたちの海外遠征の実情についてインタビューした記事だ。 (2023年2月7日公開) =================================
未曾有のコロナ禍から少しずつ日常を取り戻しつつある日々のなか、サッカー少年少女の海外遠征が再び脚光を浴びている。久保建英や中井卓大の背中を追い、多くの子どもたちがスペインの地を目指し、再び世界を体感し始めている。2012年に日本でレアル・マドリード・ファンデーションキャンプを企画して中井卓大を見出した人物であり、長年にわたり子どもたちをスペイン遠征に連れていく事業を行ってきた高橋尚輔が語る、スペイン遠征の魅力と現実とは? (インタビュー・構成=中林良輔[REAL SPORTS副編集長]、写真=Getty Images)
「この少年は誰だ!」中井卓大を最初に見出した2人
――現在、レアル・マドリードのカスティージャ(Bチーム)に所属する中井卓大選手を最初に見出した方だとお聞きしました。 高橋:イープラスユーという会社の代表を務める坂本圭介という人間と一緒に、2012年夏に「レアル・マドリード・ファンデーションキャンプ」を実施しました。それまで海外クラブの来日キャンプといえば、クラブのカンテラ(下部組織)で実際に指導しているコーチではない人間が来日するケースが多かったのですが、私たちはそれでは意味がないと考えて粘り強く交渉し、レアルのカンテラで指導する現役コーチたち4人の来日を実現させました。 そのとき、せっかく本物のレアルのコーチ陣が来てくれるのであれば、そのチャンスを生かして「日本人選手をレアル・マドリードに入れよう!」という目標を立てたんです。ちょうど、久保建英選手がバルセロナのカンテラの入団テストに合格してスペインに渡ったタイミングでもありました。 ――FIFAが18歳未満の国際移籍を厳しく取り締まるようになる前の話ですね。 高橋:そうです。キャンプを実施するにあたり、レアルのコーチの目に留まるような良い選手を集めないといけないと考えていたときに、たまたま坂本がピピ(中井卓大選手の愛称)がプレーするYouTubeを目にして「この少年は誰だ!」と。この子をぜひキャンプに招待しようという話になり、その動画をアップしたお父さんまでたどり着くことができたので、電話でアポを取って滋賀県の自宅まで押しかけたのがピピとの最初の出会いです。 ――中井選手に最初に会ったときの印象は覚えていますか? 高橋:自宅にお邪魔してお父さんとお話ししているときに、ランドセルを背負って学校から帰ってきて「はじめまして。これからよろしくお願いします」とあいさつをしました。とても礼儀正しく、ご両親に愛情を持ってしっかりと育てられているなと一目でわかる少年でした。当時はバルサが好きだと話していましたが(笑)。 ――その後、中井選手はどのような経緯でレアル入りを実現させたのですか? 高橋:2012年夏に実施した最初のキャンプで優秀選手に選ばれて、その年の冬のキャンプにも参加してもらって、翌年の春にはスペイン・マドリードで行った遠征にも参加してもらいました。その間も交渉を続けて、最初に出会った頃から1年かけて、レアルのカンテラの練習参加ができることになったんです。そこでのプレーが認められて加入が決まりました。実はこのとき、もう1人練習参加が認められた選手がいて、その子もレアル入りの可能性があったのですが、すでに国内で次の進路が決まっていたこともあり、ピピとは別の道を選びました。