「源氏物語」を角田光代の現代訳で読む・葵② 鉢合わせた正妻と愛人、祭見物で勃発した「事件」
祭の当日、左大臣家では見物をしないという。あの車の場所争いのことをくわしく報告する者がいたので、光君は困ったことになったと思い、また情けなく感じていた。やはり葵の上は高い身分にふさわしく重々しいところがあるが、惜しいことに思いやりに欠けて、無愛想なところがある。葵の上は御息所をそれほど憎んではいないだろうが、妻と愛人は互いを思いやるような間柄ではないと考えている。その考えを受けて、付き添っていた下々の者がそんな争いごとを仕掛けたのだろう。気位高くたしなみ深い御息所はそんな目に遭わされてどんなにつらかったろうかと思うと胸が痛み、さすがの光君も御息所を訪れた。
しかし斎宮がまだ家にいるあいだは清浄の地であると言って、御息所はかんたんに逢ってはくれない。それもそうだ、仕方がないと思いながらも、光君は、どちらの女もそんなに強情なのはどういうわけだ、もっとやさしい気持ちになってもいいではないかとつい愚痴を漏らす。 次の話を読む:7月7日14時配信予定 *小見出しなどはWeb掲載のために加えたものです
角田 光代 :小説家