コロナで少子化がこんなに早まっていた…東京圏や大阪圏の縮小の始まりという「厳しい現実」
人口減少日本で何が起こるのか――。意外なことに、多くの人がこの問題について、本当の意味で理解していない。そして、どう変わればいいのか、明確な答えを持っていない。 【写真】日本人は「絶滅」するのか…2030年に百貨店や銀行が消える「未来」 100万部突破の『未来の年表』シリーズの『未来のドリル』は、コロナ禍が加速させた日本の少子化の実態をありありと描き出している。この国の「社会の老化」はこんなにも進んでいた……。 ※本記事は『未来のドリル』から抜粋・編集したものです。また、本書は2021年に上梓された本であり、示されているデータは当時のものです。
大都市の外縁部は衛星都市でいられなくなる
人口減少に根差している以上、「終電時刻の繰り上げ」による変化は小さくない。われわれが注目すべきは、それが大都市圏の姿を大きく変えるかもしれないという点だ。 「居酒屋を出る時間を、少し早めなければならなくなる……」といった程度に受け止めている人も少なくないようだが、そんな単純な話ではない。 利用者減が大きな理由の1つなのだから、「繰り上げ」当初は別として、深夜時間帯の運行本数そのものが徐々に減っていくと考えるのが自然である。 大都市の場合、多くのビジネスパーソンは電車やバスを乗り継いで通勤している。オフィス街の終電時刻繰り上げは、郊外の駅で接続するバス路線の縮小にも波及していくだろう。乗換駅の終電時刻、最寄り駅の最終バス時刻の繰り上げも考慮に入れなければならない。 オフィス街の終電時刻は30分程度の繰り上げかもしれないが、自宅に帰るまでのすべての公共交通機関の繰り上げを考慮すると、「実質的な終電時刻」はもっと早くなるということだ。 そうなれば、残業時間に制約が生じ、企業は働き方の見直しを迫られる。多くの人の帰宅時間が早まれば、仕事帰りに立ち寄る飲食店などの閉店時間も早まる。繁華街では深夜営業の時間帯の見直しが加速し、オフィス街周辺や歓楽街の風景は大きく変わるだろう。 それは同時に、東京圏や大阪圏の縮小の始まりを意味する。東京や大阪のような大都市圏は、鉄道の沿線開発とともに郊外へと街並みを広げてきた。東京圏で言えば、衛星都市は群馬、栃木、茨城といった北関東各県の一部にまで広がっている。「実質的な終電時刻」が大幅に繰り上がったなら、こうした外縁部からの通勤は困難となる。 見直されるのは、終電時刻だけでない。一部では始発時刻の繰り下げや運行間隔を空ける路線もあったが、鉄道各社はただでさえ人口減少による乗客減に頭を悩ませていただけに、終電時刻が繰り上げられたことを契機として、都心部から離れた乗車率の低い路線などで、運転本数の削減傾向は強まるだろう。 実際、南海電鉄は2021年5月に22時以降の運転本数を減らした。JR西日本も同年秋のダイヤ改正で昼間帯を削減する。 テレワークが普及したといっても、一部の企業や職種に限られる。多くの企業は出社とテレワークの併用という形をとるだろう。国交省のアンケート調査によれば、新型コロナウイルス感染症の拡大後に鉄道通勤をやめた人は東京都在住者の11・7%、大阪府では9・8%で、減り幅が大きいとは言えない。まだまだ多くの人は今後も電車やバスを乗り継いで通勤するということだ。郊外の駅などで利便性の悪さが際立つようになれば、乗り換えなくても済むエリアへ引っ越す人が増えるに違いない。 大都市圏の外縁部の地方自治体における宅地開発にはブレーキがかかり、地価の下落を招けば地方自治体の税収減少にもつながる。まるで、ブラジルの1匹の蝶のはばたきがアメリカで竜巻を引き起こしてしまうというバタフライ効果のようである。 中長期的には、都市の在り方や町づくりに多大な変化をもたらし、膨張一本槍であった東京圏や大阪圏はその姿を大きく変える。ただし、大都市圏の縮小は、鉄道の運行時間の短縮や運行本数の減数が引き金となるかもしれないが、それ自体が要因ではない。 日本全体で人口減少が進む中で、東京都も2030年頃から本格的な人口減少に転じると予想されている。高齢者数も激増する。都市として求められる役割や機能が大きく変わっていくのに、東京圏や大阪圏の外縁部に位置する地方自治体が、いつまでも衛星都市で在り続けると考えることに無理があるのだ。 コロナ禍がそうした「現実」を時間のコマを早回しして突き付けてきている。これを機に、大都市圏が人口激減時代にどうあるべきかを考え直す必要がある。 つづく「日本人はこのまま絶滅するのか…2030年に地方から百貨店や銀行が消える「衝撃の未来」」では、多くの人がまだまだ知らない「人口減少」がもたらす大きな影響を掘り下げる。
河合 雅司(作家・ジャーナリスト)