M&A仲介会社「弊社クライアントに、貴社との資本提携に関心のある企業がいます」←この誘いに乗った「オーナー経営者」の末路
買い手の競争環境が作られない⇒足元を見られやすい
売り手にとっての1つめのリスクは、売り手にとって魅力的な条件が勝ち取れないということです。仲介会社経由で接触した場合であろうと、買い手から直接連絡が来た場合であろうと、買い手は1対1で売り手と交渉していることを知っています。そのような状況においては、当然ですが買い手は「ぎりぎり売り手が応諾してくれそうなライン」を狙って条件を提案してきます。これでは到底、売り手にとって良い条件を買い手から引き出すことはできません。要するに、足元を見られやすい環境になってしまうのです。 売り手が良い条件を勝ち取るためには、買い手の間に競争環境を作ることが重要です。つまり、複数の買い手が手を挙げ、なんとか良い条件を提案して売り手に選ばれたいと努力してくれる環境です。1社が積極的にアプローチしてきてくれたということは、ほかにも関心を持つ買い手が存在する可能性は十分にあります。そういった関心を示してくれる複数社の買い手を巻き込み、売り手にとって有利な環境を作っていくこと。これが事業売却を成功に導く大切なポイントです。そして、売り手のためにこうした環境作りを支援するのが、売り手専属でM&Aを支援するファイナンシャル・アドバイザー(FA)の役割です。 ここで、買い手の間の競争環境の重要性を示す事例をひとつ、筆者らの支援案件のなかからご紹介します。 -------------------------------------------------------------------------- 〈A社のケース〉 A社オーナーは50代ながら事業承継を検討しており、大手M&A仲介会社と面談して情報収集をしておられました。某大手M&A仲介会社からは具体的に約7億円の株価評価を受けており、この値段であれば最短3ヵ月ですぐに買い手が見つかるというアドバイスも受けていました。同仲介会社は、論拠の乏しい簡便法である「年倍(買)法」による評価を行っていたものと思われます。 仲介会社の提案に納得できなかったオーナーは、売り手特化でFAサービスを提供する当社のサービスに相談へ来られます。当社では仲介会社とは異なるアプローチで、マルチプル法およびディスカウント・キャッシュ・フロー(DCF)法を採用して株価を試算し、13-15億円の評価を提示しました。さらに当社では、「限定オークション」という売却アプローチ(詳しくは別稿で解説します)を採用して買い手の間の競争環境を作り、より良い条件を目指す提案をしました。 -------------------------------------------------------------------------- 当社の支援のもとで売却プロセスを進めたところ、結果として買い手から約15億円の提案を勝ち取ることができました。当初の株価評価と比較すると、倍以上の評価です。これこそが、買い手の間の競争環境を作って売却プロセスを進めることの威力なのです。