【独自】一般市民への「実験」的な投与を複数確認 内部被ばくする造影剤「トロトラスト」 0歳児や精神疾患患者にも
1930~40年代を中心に国内で使用され、多数の健康被害を出した放射性物質を含む造影剤「トロトラスト」について、戦前の医科大病院などで民間人に投与された状況を報告する複数の論文が、国立国会図書館(東京)に所蔵されていることが21日、信濃毎日新聞の取材で分かった。論文の内容から、ドイツで30(昭和5)年に開発されてから間もなく輸入が始まり、用法や用量などが不明確なまま民間人への投与が続けられたことが判明。健康な0歳の子どもらへの「実験」的な使用例も複数確認された。 【写真】「44歳主婦 トロトラスト沈着症」…トロトラストを注入され死亡した女性のリストの写し
1930~40年代、医科大病院などの論文に記載
トロトラストについて、旧厚生省は「主に旧陸海軍病院で戦傷者に使われた」とし、傷痍(しょうい)軍人に恩給増額などの支援をしたものの民間人には行っていない。厚生労働省は「民間人の被害把握は困難だった」とし、再調査にも後ろ向きだ。多数の民間人被害者の存在と投与の実態が明らかになる中、同省の姿勢が問われそうだ。
用法・用量は「未ダ決定サレザル」まま投与
同図書館で検索したところ、30~40年代に発行された医学雑誌で、トロトラストを人体に投与した状況に関する論文12本を確認。計50人余の患者について記載されていた。このうち最も古いのは、32年の「満州医学雑誌」に掲載された満州医科大の医師による論文。トロトラストの用法や用量が「未ダ決定サレザル」としつつ、18~66歳の学生や鉄道員など9人の男性患者に投与していた。
幅広い診療科で使われていた
いずれも官立(国立)の熊本、新潟、岡山、千葉の各医科大病院と、台北帝国大付属医学専門部(台湾)の論文からは、トロトラストが小児科、眼科、精神科、外科と幅広い診療科で使われていたことが分かる。34年の論文では「実験的研究」として、てんかんの持病がある15歳女性の「後頭下」に注入した例を紹介し、頭痛や嘔吐(おうと)などがあったが後遺症はなく明瞭なエックス線画像を得られた―などと評価。40年の論文では、健康な0歳児2人と貧血などの症状が出る「バンチ氏病」の10歳と11歳の男児2人に「実験」として投与した例を報告している。