紅一点アーテルアストレアと酒井助手の挑戦 菱田裕二騎手と最高の大舞台へ
競馬は、ギャンブルという世界ではあるが、人と馬が織りなすドラマを感じる瞬間があるからこそ、競馬ファンは引きつけられる。少なくとも記者はそう考えている。12月1日に行われるチャンピオンズカップに、紅一点で参戦するアーテルアストレアにも多くのドラマがある。 栗東・橋口慎介厩舎で調教助手を務める酒井慎(さかい・しん)助手は、自身のSNSで担当馬を積極的に発信している。12月1日のチャンピオンズCに出走するアーテルアストレア(牝5歳、父リーチザクラウン)のことも「あーちゃん」と呼び、愛らしい姿を数多く掲載してきた。競馬ファンからも人気を集める“名プロデューサー”だ。 前に所属した橋口弘次郎厩舎(16年に定年で引退)では、解散前の最後の重賞出走となった阪急杯でミッキーラブソングを担当していたが、結果は4着。その後も酒井助手は、重賞を勝つことができない日々が続いた。「冗談半分で、周りに慎だけ重賞勝ってないな、と言われてました」。馬への接し方にはっきりとした正解はなく、レースでの結果に重きが置かれるのが競馬。「馬の失敗は、馬でしか取り返せない。でも失敗した次の日に、助けてくれるのも馬やからね。苦しいときに助けてくれたのがゴースト(現・高知競馬の人気馬)だったり、アーテルだった」。挫折や苦労を経験しても、馬とともに歩み続け、担当馬にひたすら変わらぬ愛情を込めて接してきた。 時間がかかった分、喜びは大きかった。昨年のレディスプレリュードでアーテルアストレアが大外から差し切り、初の重賞勝ち。「トレセンの初勝利も遅かったから。(入って)1年9か月くらいだったかな」。同時にたくさんのファンが、酒井助手とアーテルの姿を写真に収め、歓喜していた。 今年はJpn3を2勝し、チャンピオンズCの舞台に戻ってきた。昨年はケガで乗れなかった、主戦の菱田裕二騎手とのコンビが心強い。相手が強いことは百も承知だが、8勝中7勝が左回りで、そのうちこの舞台で4勝と、一番得意な条件。「裕二と出られることがほんまにうれしい。チーム・アーテルやからね。ベストなパフォーマンスが出せたら、どんな結果が待ってるんやろって」と目を輝かせた。 来年は6歳となるアーテルアストレア。牝馬ということを考えれば、残された現役生活の時間は少ないかも知れない。「ほんまに感謝しかない。重賞を勝たせてくれたし、大きいレースにも連れて行ってくれた。最高の仕上がりで裕二にバトンタッチできるように、直前まで準備します。出るからにはチャンスはあるし、ドキドキよりもワクワクが勝っている」と意気込んだ。 最後に、レース当日はどこを見てもらいたいかを尋ねた。「冬毛が少し出てきて、過去イチ馬体が黒いところかな!(笑い)人と馬との信頼関係を見てもらいたいです。他の人馬もみんな仲良しやろうけど、僕らが一番仲良しや、そう思ってます」と酒井助手は胸を張って答えた。12月1日の15時30分、「あーちゃん」と酒井助手の堅い絆で、強豪牡馬に立ち向かうべくスタートを切る。(中央競馬担当・山下 優)
報知新聞社