「長谷部誠の半生は日本サッカーの財産」“生意気な後輩”鎌田大地に慕われ、岡田武史から「誠実」と評され…長年追う記者が確信する理由
「ピッチに入ったら人格が変わる」が、素に近いのでは
話を戻そう。最も長谷部の素に近いと思える姿――それが見られたのが、ピッチに立ったときだった。 「オレはピッチに入ったら人格が変わるから」 長谷部はよく言っていた。 ドイツでは特に、気持ちを表現することが強く求められる。相手選手が大げさなアクションを見せたり、激しくアピールをしてくるから、それに負けじと長谷部の感情表現も大胆になる。闘志をむき出しにした長谷部は、勝利のために走り回っていた。 現役引退は、そういう姿が見られなくなることを意味する。 では、我々は喪失感に包まれないといけないのだろうか。 どうやらそうではなさそうだ。長谷部が「指導者の道に進む」と明言したからだ。 若くて優秀な監督の多くは、チームのために喜怒哀楽を積極的に表現していく。ブンデスリーガでは、監督が1シーズンにイエローカードを4枚出されたらベンチ入りを1試合禁じられるのだが、レバークーゼンの監督としてヨーロッパを席巻した(長谷部の2学年上にあたる)シャビ・アロンソも、今シーズンは1回、出場停止になっている。 将来の長谷部が、たとえばユルゲン・クロップ監督のように、ときにファンを叱りつけ、ときにスタンドを煽る指導者となったとしても不思議ではない。
キャプテン長谷部としての日々が、大きな武器になるはず
そんな長谷部が監督となったとき、大きな武器になるのは何だろうか。 彼が現役時代に指導を受けた監督たちの練習メニューを丁寧に記してきたノートは、きっと様々なヒントを与えてくれるだろう。フランクフルトで長谷部をコンバートしたコバチのような選手起用や、心の底から選手のことを信頼したザッケローニのような人間性に触れた経験は、指導者としての引き出しを増やしてくれた。 ただ、何より大きいのは、長谷部が貫いたキャプテンとしての生き方ではないだろうか。 そもそも長谷部は、プライベートでも一人で旅行や温泉に行ってしまうくらい、孤独を楽しむことができる。 「代表合宿でも結構、自分の部屋に閉じこもっていることもあった」と『報道ステーション』に出演したときに長谷部自身も認めている。プロになってから初めてゲームキャプテンを任された南アフリカW杯のときでさえ、意識的に一人になる時間を作っていたほどだ。