元恋人に奪われた18歳の命 求刑は懲役20年 独りよがりの犯行に裁判員の判断は
■「いつかお母さんになる未来。幸せな未来しか想像してなかった」
冨永さんの命が奪われてから間もなく1年。冨永さんの母親は、夜も眠れず、家事も手がつかない状態だという。母親は法廷で「時間が癒してくれるなんて嘘だ」と思いを語った。紗菜さんについても「子どもや動物が好きで優しかったあの子が、いつかお母さんになる未来。家族が増えてますます賑やかになる、そんな幸せな未来しか想像してなかった」と泣きながら法廷で話した。 父親のもとには、事件後、冨永さんの友人から1通の手紙が届いた。手紙には「自分が周囲からよく思われていないときでも、紗菜ちゃんだけは優しく接してくれた」と書かれていたという。父親は裁判で涙ながらに紗菜さんを思い「家族だけでなく、どんな人にも優しく接することができる子だった」と話した。そして最後に「(紗菜さんは)生きがいであり、娘の夢が僕の夢で、娘の幸せが僕の幸せだった。いつも一緒だと思っていた」と話した。 強く印象に残ったのは、ここまでの裁判の中で、両親とも伊藤被告への罵りや恨みを発することはなかったことだ。
■どんな会話があったのかを知るのは伊藤被告だけ
伊藤被告は犯行を認めているので、裁判の争点は量刑となる。紗菜さんは亡くなっているため、伊藤被告との間に何があり、2人がどのような会話をしたのかは、全て伊藤被告の裁判での答弁がベースになる。 弁護側は、伊藤被告は別れを切り出されたことで人生全てを失ったと考えたこと、犯行は突発的であり、9歳から診断されていた自閉スペクトラム症の影響も少なからずあったことなどを挙げ、情状酌量を主張した。 一方、検察側は、犯行直前、現場に向かう車の中で伊藤被告が「家に行ったら必ず刺す。必ず刺さないと。未遂で捕まったら紗菜がハッピーなだけ」と独り言をいうドライブレコーダーの映像などから、強い殺意があったと指摘。また犯行直前に「復縁できるかもしれない」という手ごたえがあったのならば、なぜ紗菜さんを殺す必要があったのか、などと伊藤被告の証言を「責任逃れのための嘘」と指摘し、懲役20年を求刑した。 求刑ののち、裁判長に最後に言いたいことはあるかと問われると、伊藤被告は「本当に取り返しのつかないことをしてしまった。命がけで償っていきたい、本当に申し訳ありませんでした」と謝罪の言葉を口にした。 独りよがりな行動をとり続けて18歳の命を奪った伊藤被告にどのような罰を与えるべきなのか。紗菜さんは殺害されてしまい、実際にどんな気持ちでどのような会話をしたのかは、男の話をもとにするしかない。苦悩する裁判員たちがくだす結論は21日に出される。
テレビ朝日