元恋人に奪われた18歳の命 求刑は懲役20年 独りよがりの犯行に裁判員の判断は
■「包丁で脅せば復縁できるかも…」伊藤被告の理解しがたい行動原理
伊藤被告はなぜ紗菜さんを殺害したのか。犯行動機を問われると、伊藤被告は「包丁を見せて脅せば戻ってきてくれると思った」と答えた。それで戻ってきたとしても本当にヨリを戻したと言えるのか、誰もが持つ疑問を検察官に指摘されても、伊藤被告は「その時は本当にそう思ったんです」とだけ答えた。 会うことを拒否された伊藤被告は、何とか直接話し合うため、紗菜さんのアルバイト先で待ち伏せたという。アルバイト先の同僚が機転を利かせ会わせないようにし、紗菜さんの父親が迎えに来ることでこの時は事件には発展しなかった。この時、伊藤被告と顔を合わせた紗菜さんの父親は伊藤被告に「次はないぞ」と厳しく注意をした。 独りよがりな連絡を続け、アルバイト先にも直接来るような男に対して、警察に依頼するなどもっと厳しい対応ができたのではないか。第三者が後からそう言うのは簡単だが、冨永さん家族は伊藤被告を信じ続けた。しかし、最悪の結果となってしまった。
■「龍稀くんにも将来があるから」信じ続けた被害者家族の優しさあだに
去年6月29日早朝、伊藤被告は紗菜さんが被告の家に置き忘れていた鍵を使って冨永家に侵入し、部屋の布団で寝ていた紗菜さんに話しかけた。実家の自分の部屋に、執拗に復縁を迫る元交際相手の男がいる。どれほどの恐怖だっただろうか。 慌てた紗菜さんは「お母さんがいるから」と伊藤被告を連れて家を出て、マンションの外廊下で話したという。 伊藤被告は裁判で、その場で30分~1時間(検察官の追及で実際は15分ほどだったと判明)に渡り会話をして「やっぱり2人で話せば大丈夫じゃん」と思った、復縁の可能性を感じたと説明した。 紗菜さんは家の中に戻ると、母親に「今、龍稀君がいる」と説明。出先で連絡を受けた父親が家に駆け付け3人で対応を考えたが、紗菜さんは「龍稀くんがかわいそうだから警察には連絡しないであげて」と両親に頼んだという。両親は紗菜さんの言う通り警察への連絡をやめたが、心配な父親は紗菜さんを車で送ることにした。 しかし、父親の車に向かう紗菜さんを、背後から現れた伊藤被告が襲う。会話が終わり帰ったと思われていた伊藤被告は、マンションの外階段に潜んでいた。伊藤被告は、紗菜さんとの会話が終わったあと隠れていた理由を「ここで別れたら被害者が別の男性とつきあってしまうなどと考え、自分には何も残らなくなってしまうと感じ、殺意がわいてしまった」と述べた。 駐車場に向かう紗菜さんの後をつけた伊藤被告は「紗菜ちゃん、ごめんね」と言って包丁を突き出し、4回刺したという。紗菜さんの死因は出血性ショックだった。