ENEOS、不祥事防止へ経営層「身体検査」徹底 指名委は反省の弁
経営トップの不祥事が続いたENEOS(エネオス)ホールディングス(HD)で4月、解任された前社長の後を受ける形で宮田知秀副社長執行役員が社長に昇格する。経営の主要幹部が相次いで起こした不祥事によって、ガバナンス(統治)の観点から経営者の選任プロセスへの信頼が揺らいだ。産業界に重い教訓を投げかけている。 【関連画像】ENEOSグループでは1年半のうちに3人の経営者が不適切な行為の責任を取ってグループを去った(写真:日刊工業新聞/共同通信イメージズ) 「(斉藤猛)前社長が起こした行為は言語道断で、決して看過するわけにはいかない」。2月28日に東京都内で開いた記者会見で、ENEOSHD指名諮問委員会議長の工藤泰三社外取締役(元日本郵船会長)はこう力を込めた。 ENEOSHDでは2022年8月、当時の杉森務会長兼グループ最高経営責任者(CEO)が女性に性加害を働いたことが発覚して辞任。その記憶がまだ薄れていない23年12月、今度は斉藤氏が懇親の場で同席した女性に抱きつく行為があったとして解任された。 再生可能エネルギーを手掛ける子会社、ジャパン・リニューアブル・エナジー(東京・港)でも安茂会長(当時)の女性に対するセクハラ行為があったといい、24年2月に同氏を解任した。わずか1年半ほどの間に3人の経営者が不適切な行為の責任を取ってグループを去ったことになる。 苦い経験が生かされていなかった。杉森氏の辞任を巡ってENEOSHDは当初、一身上の都合で取締役を辞任するとの申し出があったと説明。ところがその後、同氏が那覇市の高級クラブの女性店員に性加害を働いたと発覚。不都合な事実の隠蔽を図ったと見られ、同社は世間から批判を浴びた(参考記事:「性加害辞任」に「不倫辞任」、スキャンダルの開示に悩む企業)。 いずれも経営トップとしての自覚に欠ける行為で、基本的には問題を起こした本人の責任であることは言うまでもない。ただしENEOSグループで立て続けに起きたという事実は重い。トップにふさわしい人材を選べているか否かという観点でガバナンスの在り方に疑問符が付いた。 ENEOSHDは会社法上の監査等委員会設置会社であり、取締役会の諮問機関として工藤氏を議長とする指名委が置かれている。工藤氏ら社外取3人を含む取締役5人で構成する。社長など取締役候補者を選ぶのは取締役会だが、指名委はその決定プロセスが客観的に妥当か否かを判断する役割を担う。 ●人材デューデリジェンスを強化 その意味で、一連のトップによる不祥事について指名委は責任を免れない。宮田次期社長らとともに記者会見に出席した工藤氏は、前述のように斉藤氏の行為を批判した上で、指名委の責任について「弁解の余地もない。不測の事態をもっと予測して人材デューデリジェンス(DD)を行うべきだったと思う」と反省の弁を述べた。 この人材DDがENEOSHDのトップ選びにおける新たなキーワードと言える。かみ砕いて言えばトップ候補の「身体検査」ということだ。 従来の取締役・社長選任プロセスでは「戦略的思考力」「誠実性」といった経営者に求められる一般的な能力・姿勢を基準に、執行部門が候補者を指名委に推薦。指名委は候補者と面談し、取締役会に答申するという形を取ってきた。 不祥事を踏まえてENEOSHDが今回変革したのは、指名委が単なる「追認」ではなく、候補者が適任かどうかを見極めるための分析・評価を充実させた点だ。工藤氏は「指名委が再発防止とコーポレートガバナンス(企業統治)向上へ果たすべき役割は大変大きいと認識している。役員の行動のモニタリングを強化していきたい」と語った。 その上で宮田副社長を次期社長に選ぶ過程で「人材DDを相当に強化した」と明らかにした。新たに第三者機関が候補者の現在・過去の同僚・部下に聞き取り調査を実施した。具体的には、過去の規範逸脱リスクやハラスメントリスクが生じそうな場面、あるいは飲酒時に候補者がどんな言動を取ってきたかを徹底的にヒアリングした。