祝バースデー前田敦子、“国民的アイドル”から“やさぐれ感”のある役もハマる実力派俳優へ
前田敦子が7月10日に33歳の誕生日を迎えた。AKB48在籍中の2007年に俳優としてのキャリアもスタートさせ、2012年にグループを卒業した後は俳優業をメインに活動し、広いジャンルの作品に出演してきた。宮藤官九郎が脚本・監督を務めたドラマ「季節のない街」で“やさぐれた元アイドル”役を演じるなど様々な姿を見せてくれる前田の誕生日を記念して、俳優としての活動の軌跡を振り返ってみよう。 【写真】「季節のない街」での“アイドル姿”の前田敦子と夫役・塚地武雅との2ショット ■映画デビューは「あしたの私の作り方」 2005年にAKB48のメンバーとしてアイドル活動を始めた前田は、2007年に映画「あしたの私の作り方」で映画デビューを果たす。市川準監督がメガホンをとり、主演はドラマ「瑠璃の島」、映画「神童」でも主演を務めた成海璃子。携帯電話を介して2人の女子高校生が“自分らしさ”の再生を目指す物語で、前田はクラスで無視されている日南子を演じた。 ドラマ初主演は翌2008年に放送された「栞と紙魚子の怪奇事件簿」。諸星大二郎の漫画「栞と紙魚子の生首事件」が原作で、女子高校生2人が街の中で起こる怪事件を解決していくゆる~いホラーコメディー作品。南沢奈央とのW主演で、前田はメガネをかけた紙魚子を演じた。 他にも、2010年の大河ドラマ「龍馬伝」(NHK総合ほか)に出演したり、2011年公開の映画「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」で主演を務めるなど、AKB48在籍中から大きな作品への出演も増えていた。 2012年8月にAKB48を卒業すると、同年10月放送の日中国交正常化40周年記念特別番組であるシリアスなドラマ「強行帰国~忘れ去られた花嫁たち~」(TBS系)で新たなスタートを切った。元々映画が好きだった前田は、卒業後より多くの映画を見るようになったという。それだけ俳優という仕事への思いが強く、多くの経験をしたいという意志があったのだろう。その熱意を感じた映画監督たちが、前田を多く起用し始める。 作家・西村賢太の同名小説を映画化した「苦役列車」は、卒業する直前に公開された作品だが、前田はヒロイン・康子を演じ、森山未來演じる主人公・貫多に頭突きを喰らわせたり、下着姿で海に入ったり、チャレンジの多い作品となっていた。この作品は「マイ・バック・ページ」などを手掛けた山下敦弘監督が手掛けており、前田自身、山下監督の作品が好きだったということで、この作品への出演は大きな自信につながった。山下監督は2013年公開の「もらとりあむタマ子」の主演に前田を起用。大学を出たものの、実家に戻ってきて就職もせず、家事も手伝わず毎日を過ごすぐうたらな23歳の“タマ子”を自然な演技で演じており、これもまた演技の幅を広げることに成功した作品となっている。 黒沢清監督も、前田の才能を高く買っている監督の一人。2014年に前田の4thシングル「セブンスコード」のMVを撮り、それを一つの作品「Seventh Code」として劇場公開。2017年には長澤まさみ主演の映画「散歩する侵略者」に、長澤が演じる鳴海の妹・明日美役で出演。2019年に公開された「旅のおわり世界のはじまり」では前田を主演に起用し、長編映画で初の海外オールロケを体験した。この作品は日本とウズベキスタンの国交樹立25周年、そしてナボイ劇場完成70周年を記念して共同制作された作品で、日本のテレビバラエティーのクルーと共にウズベキスタンを訪れたリポーター・葉子を演じた。現地コーディネーターや異文化の人たちとの交流で新しい世界を開いて成長するという物語で、演じた前田自身も大きな成長を遂げている。 「ケイゾク」「TRICK」「SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~」といった一連のシリーズを手掛けた堤幸彦は、AKB48の「フライングゲット」のMVを撮影しており、2014年公開の「エイトレンジャー2」に前田を起用。そして2015年公開の映画「イニシエーション・ラブ」で、前田の俳優としての新たな扉を開けた。乾くるみの人気小説を松田翔太主演で映画化した作品で、前田はヒロインの繭子を演じた。1980年代後半の静岡と東京を舞台に、カセットテープの裏表のように「Side-A」と「Side-B」の2編によって展開していく恋愛ストーリーで、小悪魔的魅力を持つ繭子を見事に演じ切っている。そういえば、繭子の誕生月も前田と同じ7月で、誕生石のルビーの指輪を着けていた。 ■人気作から“通好み”の作品まで幅広く出演中 その後は「マスカレード・ホテル」や「コンフィデンスマンJP」シリーズといった人気作品、「そして僕は途方に暮れる」「あつい胸さわぎ」「くれなずめ」などの映画通も好む作品まで多く出演しており、作品ごとに演技の幅は今も広がっている。 ここ最近のドラマに関しては、「かしましめし」(2023年、テレ東系)でもいい味を出していた。前田が演じる千春の元カレが自殺し、その葬儀でかつてデザイン学校で同級生だった中村聖子(成海璃子)と雨海英治(塩野瑛久)と再会。その日をきっかけに3人で集まって飲むようになるが、それぞれが仕事やプライベートで悩みを抱えている、というストーリー。前田の映画デビュー作「あしたの私の作り方」で共演した成海と再共演というのもアツい。 もう一つ、ドラマでの印象的な役というと、2023年よりディズニープラスのスターで配信となっており、2024年4月期にはテレ東系で地上波放送された「季節のない街」も忘れられない。宮藤官九郎が脚本・監督を務め、池松壮亮や仲野太賀、渡辺大知らが出演。被災した人たちが身を寄せる仮設住宅での物語で、前田は元アイドルであり、5人の子どもを育てる訳あり夫婦の妻・沢上みさおを演じた。 前田演じるみさおは被災地に慰問でやってきたアイドルグループ・べじっ娘のかいわれちゃんとして活動していたが、存在感が薄く、置き去りにされてしまう。その後仮設住宅に住む良太郎(塚地武雅)と結婚し、5人の子どもが生まれるが、父親はそれぞれ違うというぶっ飛んだ設定の個性の強いキャラ。劇中のアイドル時代のステージでの演技と現在の“やさぐれ感”のある演技のギャップが見事だった。いろんな役を経験してきたからこそ表現できる演技になっている。 7月10日に33歳の誕生日を迎えた以降は、9月27日(金)公開の映画「ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ」への出演も決まっている。こちらは「季節のない街」で共演した池松も出演。今後、どんな役に挑戦してくれるのか楽しみだ。 ◆文=田中隆信