サントリー日本一奪回の裏に「ラグビーナレッジ」
サントリーが完全制覇を果たした。 国内最高峰のトップリーグを15戦無敗で制していたサントリーが、1月29日、東京・秩父宮ラグビー場での日本選手権決勝で連覇を目指したパナソニックを15―10で下す。前年度はトップリーグ9位に終わっていたなか、驚異的なV字回復を果たした。4シーズンぶり7度目の日本一である。 成功の背景には、沢木敬介新監督らのチーム改革がある。春先におこなう肉体強化では、筋力トレーニングの目標数値に海外クラブ級の基準が定められた。さらにそのターゲットの数字は、沢木監督が選手との個人面談を経て別個に設定。オーダーメイドのコーチングがあった。 そしてシーズンイン後、指揮官が多用したのは「ラグビーナレッジ」という言葉だった。和訳すれば、「ラグビーに関する知識、偏差値」といったところか。沢木監督は身体だけではなく、頭や心持ちにも刺激を与えてきた。結果的に、苦しいファイナルゲームも制することとなる。 フィジカルトレーニングが続いた春から夏にかけ、指揮官はジムやグラウンド以外の場でも新たな試みをした。 直近の海外での試合を素材に、例えば「このオールブラックス(世界ランク1位のニュージーランド代表)と戦う場合はどうするか」などのお題を掲げる。選手を複数のグループに分け、議論をさせた。 狙いは、プレーヤーたちにラグビーという競技そのものについて考えさせることだった。ディスカッションを通し、仲間同士でお互いの考えを知り合えるメリットもあったろう。最初はキャリアのある選手が率先して話していたが、次第に若手選手の意見も増えたという。 プロップの石原慎太郎は、確かにその効果を実感していた。 「そこで確実にナレッジが上がったと皆、感じている。そういう準備が、試合中にパニックにならないところへ繋がっていったと思います」 沢木監督は後に、「今季は意思を持ってトレーニングしてきた」と強調するようになる。スタッフがハードワークするなか、フィフティーンも主体的に「ラグビーナレッジ」を磨いたからだ。オフの日もグラウンドに出向き、ランやコンタクトを伴わない形で攻防の連携を図った。 入社2年目でキャプテンとなったスクラムハーフの流大は、進化への手応えをこのように語った。 「頭のなかを整理しました。それもあって、皆のやるべきことが明確になっていたと思います」 ファイナルゲーム。前年度までトップリーグを3連覇していたパナソニックに対し、サントリーは持ち味の連続攻撃で「ミスマッチ」を狙った。大型選手の並ぶ接点周辺に、俊足選手を駆け込ませたのだ。 その際の走者の1人が、ウイングの中鶴だった。 前半17分、自陣深い位置の密集近辺で流のパスを受け取ると、敵陣22メートル線付近まで前進する。先制ペナルティーゴールのきっかけを作った。 そのほかの場面でも、松島幸太朗ら快足戦士が、接点の近くでパスを呼び込んだ。パナソニックの横幅の広い防御網をイメージしてか、スタンドオフの小野晃征は意図を明かす。 「パナソニックさんは広がっていいディでフェンスをする。少ないパスでしっかりとゲインを切る(前に出る)」