市川実日子、愛される理由は“独自のペース” バカリズムのゆるい会話劇とも相性抜群の予感
荻上直子、庵野秀明など“独自のペース”を持つ監督の映画で活躍
市川はこの手のキャラクターを演じるのが抜群にうまい。きわめて自然体でありながら、彼女が体現する存在が物語全体にリズムやテンポを与え、それにより作品が転調することもしばしばある。オーケストラでソロパートが用意されているプレイヤーとでもいうべきか、あらゆる作品の脇で、重要なポジションを彼女は担ってきたのだ。 近年はドラマでの活躍が多く目に留まるが、映画初主演作『blue』(2002年)が公開された2000年代は、「映画俳優」という印象のほうが強かったのではないだろうか。市川は独自のペースを持った女性を演じることに優れていると先述したが、荻上直子監督の『めがね』(2007年)や『レンタネコ』(2012年)、『マザーウォーター』(2010年)に『東京オアシス』(2011年)など、作品そのものが独自のペースを持った映画に深く関わってきたことが、そのひとつの理由なのかもしれない(独自のペースを持った作品でいえば、『シン・ゴジラ』(2016年)もそうだ。こちらはハイスピードな作品のため、上に並べた映画たちとは対極にあるものだが)。 そんな彼女がゴールデン・プライム帯のドラマで主演を務めるーーそれが『ホットスポット』なのだ。このドラマが放送される夜だけ、私たちはいつもと違う時間感覚を味わうことになるのではないだろうか。2020年代の市川実日子の代表作になるのは間違いない。
折田侑駿