シミュレーション「ウォルズ対バンス」副大統領候補は本当に選挙戦に影響を及ぼさないのか?
バンスの反撃効果は?
バンスは不利な状況を変えようと、ウォルズの軍歴に焦点を当てて反撃を開始した。元海兵隊のバンスは、24年間陸軍州兵を務めたウォルズが、2018年、ミネソタ州知事選の最中に、戦闘地域で軍務に就いていないのにもかかわらず、「私が戦場で使った武器」と発言していた点を責めた。ウォルズの報道官は、「誤って発言してしまった」と釈明した。 ウォルズはこの件に関して、「他人の軍歴を侮辱するべきではない。国への奉仕と犠牲に感謝する」と述べて、ベトナム戦争中に捕虜となった退役軍人のジョン・マケイン元上院議員の名誉を汚す発言をしたトランプに有権者の目を向けさせようとしている。 バンスはウォルズの退役した理由についても批判を始めた。ウォルズが2005年5月、イラクへの派兵を回避するために退役をしたと言うのだ。ウォルズは退役の理由を、連邦下院議員に出馬するためだと説明した。ウォルズは2005年2月、下院議員への出馬の書類を提出している。イラク派兵の可能性について通知があったのは、同年3月であった。時系列でみれば、ウォルズが出馬の準備を始めたのは、彼の所属部隊のイラク派遣が決まった前である。 一方、バンスの「強み」はキリスト教右派の支持を得ていることである。ただし、トランプ支持の白人至上主義者たちは、彼のインド系の妻ウーシャと子どもの故に、彼らは、バンスが移民を重視すると警戒している。ウーシャがキリスト教徒ではなく、ヒンドゥー教徒である点も指摘している。 白人至上主義者たちは、結局トランプに投票をするのだが、非白人と結婚したバンスを心理的に受け入れることができないのだ。それでも、支持者はトランプに投票するのであって、副大統領如何によって投票を変えるのではないという発言に繋がっている。
ハリスとウォルズの「コンビネーション」
前述したように、ウォルズは、ハリスがトランプに対して票差で大きく引き離したいと考えている女性の好感度において、バンスをリードしている。また、若者(18~39歳)の好感度に関しても、好感度から非好感度を引いた差が、バンスはマイナス22ポイントであるのに対して、ウォルズはプラス16ポイントで圧倒している。黒人の好感度はバンスがマイナス41ポイントである一方、ウォルズは逆にプラス41ポイントだ。無党派層をみても、バンスはマイナス15ポイントであるが、ウォルズはプラス7ポイントである。ウォルズは確実にハリスに対して援護射撃している。 では、全国的にみてバンスはトランプを助けているのだろうか。エコノミストとユーガブの全国共同世論調査では、38%がウォルズはハリスが大統領選挙で勝つチャンスを高めて「助けている」、14%が勝つチャンスを下げて「傷つけている」、26%が「変わらない」、23%が「分からない」と回答し、「助けている」が最も多かった。対して、バンスに関しては、22%が、トランプが大統領選挙で勝つチャンスを高めて「助けている」、26%が勝つチャンスを下げて「傷つけている」、34%が「変わらない」、18%が「分からない」と答え、「傷つけている」の割合が「変わらない」の次に高かった。このように、有権者はウォルズがハリスのプラス要因、バンスがトランプのマイナス要因になっているとみている。 トランプが指摘するように、一般に大統領選挙では副大統領候補の影響は小さいと言われているが、今回の大統領選挙では、ハリスとウォルズの良好で絶妙なコンビネーションが、トランプの力を削ぐ可能性は否定できない。
海野素央