【昼酒御免!】私はもやしそばを素通りできない 「新宿思い出横丁」昼下がりの誘惑
お酒はいつ飲んでもいいものだが、昼から飲むお酒にはまた格別の味わいがある――。ライター・作家の大竹聡氏が、昼飲みの魅力と醍醐味を綴る連載コラム「昼酒御免!」。初回は新宿思い出横丁の名店から始めてみよう。【連載第1回】 【写真】心して慎重に頼んだ最初品は「ビールの小ビンと餃子」。次に頼んだのはシンプルで妙な甘さがない「酎ハイ」
* * * 酒飲みは、たいてい、いつでも飲みたい。朝起きて、調子がいいと、朝から飲みたい。朝、不調なら、昼から飲みたい。夕方も、夜も、深夜も明け方も、飲みたいのである。 なぜかは知らぬ。 けれどもこれも、尽きることなき酒の道だ。日々の酒は、その修練の先に何か大きな悟りをもたらす修業にほかならない。だから飲む。 と、嘯きつつ街を歩けば、ああ、昼から飲めるスポットのなんと多いことよ。 人生100年時代と言われる。ありがたいか。冗談言っちゃいけない。私は今、61歳だ。100歳まで39年ある。その間、何をするというのか。体力の衰えは否めず、何もないところでつまずき、よく、咽る。かといって、若返る、という魔法にすがりたくもない。つまり、これから、日々確実に衰え、朽ちていくだけなのだ。 だからこそ、昼から飲んで将来不安をうっちゃらないと、やってられない。これは私だけの了見かもしれないが、ハメを外した、しばし、フワフワとしたいい心持ちになれる今を、大事にしたい。 そう、年取ってわかったのだ。昼酒は、今を生きる、ということである。 ということで今回から、「昼酒御免!」とひと言発して、ささっと飲む。ただそれだけのコラムを開陳してみたい。酒好きのみなさんにはよく知った店も登場するでしょうし、おお、そんなところもあったのかと、偉大なる発見に心躍ることもありやと思う。
さあて、何にするかな。壁一面に魅惑の酒肴が並ぶ
で、最初の昼酒は、やはりあそこだ。新宿思い出横丁の「岐阜屋」へ向かいます。 あの、JRの高架脇の路を通りかかるとき、私の心はいつもフラフラと揺れている。餃子ビールか、焼酎とキクラゲの炒め物か、メンマでホッピー、なんていうのも捨てがたいよ、と頭の中がいっぱいになってしまうのだ。 某月某日。午後2時。私は、この路地を通りかかった。いや、通りかかったというのは、嘘。新宿西口ヨドバシカメラ本店で用事を済ませ、西口から駅に入ればよかったのだが、わざわざ思い出横丁まで来たのだ。 第二宝来家、鳥園、きくやと、よく知った店の前を通れば、ああ、すでに店を開けている店に飛び込んでしまいたくなるのだが、実はもう、頭の中を岐阜屋が占領しているのであった。 ガラスの引き戸を開けると、ランチタイムも過ぎた頃合いとあって、席はいくつも空いていた。扉を背にして丸い座面の椅子に座り、壁にかけられたメニューを眺める。 さあて、何にするかな。なにしろ品数豊富であって、それだけでも迷うのだけれど、酒肴にうってつけの品々が並ぶので、困る。また、このあたり、昼下がりの酒の難しいところなのだが、たいていは一人で店に入るから、頼める料理の数に限りがある。私などは、飲めばあまり喰わないタチであることに加え、齢60を超えて食が太くなろうはずもないから、頼むものは厳選しなければならないのだ。 たとえば餃子にビールという王道を行く選択がある。そこまではいいのだが、他に、たとえばチャーシューの単品とかピータン豆腐とか、つまみ系を追加した場合、その後に肉野菜炒め&ライスとか、ザーサイチャーハンとか、中華丼や五目そばまで、食べきれないかもしれない。それはダメだ。絶対に避けなければならない。