房総野生探訪記。Vol.3
時々、無言になりながら食事をしていると、車のエンジン音が聞こえてきた。ガラガラッと玄関の扉が開くと「狩人の会」の男性部員が慣れた様子で入ってくる。自宅の庭木を切るために高枝切り鋏を借りにきたという男性は、最近都心から房総へと移住してきたらしい。小林さんと男性はつい先日、四年ぶりに開催された地元のお祭りの話題で盛り上がっていた。 またしばらくするとエンジン音がする。山へきのこ狩りへと行っていた部員がたくさんの山栗を拾って帰ってきた。静かだった古民家が一気に部室のようなムードへ様変わりしていく。
好きなものだけを追い求める小林さんの姿は、サバイバル術に夢中になっていた少年の頃のまま大人になったようだ。一通りの撮影と取材を終えて荷物をまとめていると、小林さんは今日獲れた猪肉と冷凍された鹿肉を保冷バッグに詰めてお土産にと渡してくれた。 「また遊びに来てもいいですか?」と小林さんに聞くと、「いつでもどうぞ」と笑顔で答えてくれた。私は獣に気をつけながら、ナビを頼りに都心へ向け車を走らせた。君津の街を抜け、アクアラインを走ると対岸には東京タワーが煌々と光っていた。
プロフィール
小林義信 | 「東京大学狩人の会」会長。合同会社 日本自然調査機構代表。茨城県出身、東京大学農学部を卒業。第一種銃猟、わな猟、網猟の免許を所有。狩猟活動のほか、山間地域の動植物の生態調査も行っている。
執筆者プロフィール
池田宏 | 写真家。1981年生まれ、佐賀県小城市出身。2006年に大阪外国語大学外国語学部地域文化学科アフリカ地域文化専攻スワヒリ語卒業後、studio FOBOSに入社。2009年よりフリーランスで活動。2019年に写真集『アイヌ』をリトルモアより刊行。2020年、日本写真協会新人賞受賞。 photo & text: Hiroshi Ikeda, edit: Yukako Kazuno
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