『マイナインスワローズ』史上初のプロ野球×乙女ゲーの秘密。なんでスワローズが乙女ゲームに!? ヤクルトファンの記者がオトメイトに理由を直撃した!
なんだこりゃ。 その日、筆者はアタマに「?」を浮かべながら、発表されたゲームについての情報を何度も何度も見返した。 【記事の画像(21枚)を見る】 筆者はプロ野球のファンだ。とりわけ、東京・神宮球場に本拠地を置く東京ヤクルトスワローズのファンだ。 その東京ヤクルトスワローズが乙女ゲームになるのだという。 発表されたメインビジュアルには、見慣れた神宮球場と、見慣れないイケメンな選手たちが笑顔を弾けさせている。 な、なんだこりゃあ。 2024年8月29日に発売された、オトメイトの新作『My9Swallows TOPSTARS LEAGUE』(『マイナインスワローズ』)。 実在のプロ野球球団東京ヤクルトスワローズとコラボした女性向け恋愛アドベンチャーゲーム、つまり“乙女ゲーム”としてリリースされた。 す、スワローズが乙女ゲームに? 山田哲人や村上宗隆と恋愛できるの? あ、できないの……。野球はするの? するんだ。え? “野球とダンスで戦うリーグ”が新設? ……お、おう。 ははーん、なるほどね、全部理解したわ(わかってない)。 というわけでまったく理解できなかった筆者は、開発元のオトメイトディレクターを直撃。本作開発の経緯や苦労、注目点などについて(野球の話に脱線しながら)聞きまくってきた! オファーはヤクルト球団側から 堅田: 訊きたいことがありすぎて、どこから訊こうかなと悩むのですが……。 瑞澤: なんでも訊いてください。 堅田: いったいぜんたい、どうして本作ができたのですか? 瑞澤: まずはそこですよね(笑)。企画のスタートは、2~3年前でした。じつは、ヤクルト球団様側から、オファーがあったんですよ。とくにオトメイトスタッフの誰かが球団の方と知り合いだったというようなこともなく、弊社のお問い合わせ窓口からご連絡をいただきまして。 堅田: えっ。「あの~ちょっと、スワローズの乙女ゲームが作りたいのですけど……」という感じで。お問合せフォームってそういうこと送っていい場所なのですか。 瑞澤: 「ゲームを作りたい」というよりは、「自社でコンテンツを立ち上げたい」というお気持ちがあったのかなと思います。ヤクルト球団様はこれまでいろいろなアニメとのコラボをされていますが、コラボではなく自分たちで立ち上げたい、という気持ちがあってお声がけをいただいたのかなと。 堅田 : コラボイベント試合とかありますよね。昔、『空中ブランコ』ってアニメで田中浩康選手の応援歌が劇中で流れていたりもしましたよ(2009年)。オファーを聞いたときは率直にどう感じました? 瑞澤: これは異色のコラボだなと……。最初に聞いたときは驚いて、一度聞き返しました。 堅田: 「なんて?」って(笑)。 瑞澤: もちろん東京ヤクルトスワローズというチームのことは知っていましたし、話題になるだろうなとは思いましたけど、この素材をどう料理するかはかなり悩みました。話題にはなるだろうけど、どう打ち出そうかなと。オトメイトのファンは、野球について詳しく知る人は少ないでしょうし、内部スタッフについても悩みましたね。 堅田: 恋愛アドベンチャーというジャンルでという方向性すぐに決まったのですか? もしかしたら「この際、野球ゲームで作ってみよう!」となる可能性もあったのかなと思うのですが。 瑞澤: そうですね。ただ、オトメイトで作るとなると“恋愛”は入れないといけないので、そこは最初に確認しました。「恋愛ゲームになりますがよろしいでしょうか」と。 野球ゲームという可能性をまったく考えなかったわけではないですが、あまり複雑なゲームにしてしまうとストーリー性が薄れてしまうので、そこはアドベンチャーというジャンルで方向性を定めました。 堅田: 作ること、コラボを受けること自体はすんなりと決まったので? 瑞澤: 現場ではいろいろな意見が出ましたが、「このコラボを実現させるためにどうすればいいか」と考えて、前向きに進めていきました。 ダンス! 歌! 野球! 堅田: “野球のほかにダンスと歌で競う”新リーグが立ち上がる……という、本作の特色であり、野球ファンをやや戸惑わせたアイデアは、そんな流れで出たわけですか? 瑞澤: 野球一本でドラマを作ることも可能なのですが、それだと既存のオトメイトファンに、十分に楽しんでもらえるかな? という心配がありました。そこで、ヤクルト球団様のプロ野球要素と、オトメイトの得意分野である歌、ダンス、イケメンという要素を組み合わせてみよう! じゃあ、新リーグだ! と思いまして。 堅田: すごい組み合わせだ。 瑞澤: その新リーグのために、“歌って踊れる野球選手”を集めるというところから物語が始まり、球団職員である主人公も奮闘していくわけです。アイドルもやるということすから、キャラクターが全員イケメンでも違和感はないでしょう? 堅田: あっ、彼らはなんというかゲーム的な事情でというか商品的な事情で全員イケメンなわけではなくて、きちんと作品世界のなかでもイケメンなのですね? 瑞澤: そうです。なぜならアイドルもやらなきゃいけませんからね。 堅田: 「プロ野球選手にしては線が細いなあ」とか、「もっと193センチ95キロくらいの大型なキャラクターいてもいいのに」とか思っていたのですが、道理で。ちゃんと理由があったんですね。 瑞澤: 実際の野球選手の方ってがっちりした体形の方が多いんですが、本作のキャラたちは踊らないといけないので。あと、大きすぎると画面上からハミ出ちゃうので(笑)。 堅田: (笑)。 瑞澤: 発売前に評判をエゴサーチしてみると、「野球はあんまり」という声がやっぱり多かったんですよね。野球もあるけどそれだけじゃない、とお伝えしたいです。 堅田: 最近は野球マンガやアニメでも、女性ファンが増えたなあという印象を持っていたのですが。 瑞澤: アニメとかはいいと思うのですが、乙女ゲームだとなかなか……。神宮球場で9人そろって歌っていただくことができれば、という制作者の夢も一応込められています。 堅田: 夢ですね! ゲーム内のヤクルト要素 堅田: ふだん開発しているタイトルとはやっぱり勝手が違いましたか? 瑞澤: 違う部分も多かったですね。たとえば最初に発表したときも「えっ、選手と恋愛できるの?」という声が上がったり。 堅田: “スワローズの乙女ゲーム”と聞くと勘違いするのも無理はないですよね(笑)。実際のゲームには実在選手は登場せず、全員が架空のキャラクターですからね。 瑞澤: つば九郎さんは本人(鳥)に登場してもらいましたが、その他は架空ですね。 堅田: そうそう、つば九郎! 彼だけ本人(鳥)が登場するというのは、なぜなんです? 瑞澤: ヤクルトを題材にするならつば九郎でしょう、と。 堅田: なるほど。 瑞澤: 人気のマスコットさんですからね。 堅田: ねえ。すごいんですよ、つば九郎。 グッズ売上もチーム内で首位を争い、ディナーショウをやればチケットは完売、今度は雑誌『anan』の表紙になって、それもまたAmazonやら書店やらで完売続出だというんですから。 瑞澤: これはやはりご出演いただかないと!(笑)。ですが、しゃべるセリフもなくて攻略もできませんし、彼独自のコメントもなかなか作るのが難しかったですね。 堅田: ウィットに富んだというか、シニカルというかエスプリというか、毒というか……。 瑞澤: あの味はご本人(鳥)にしか出せない部分ですね。ただ、ヤクルト球団様にきちんと監修を受けて、少しずつ本物に寄って行って現在の形に落ち着きました。かなりたいへんでしたが……。 堅田: イラストも本作描き下ろしですしね。 瑞澤: じつはイラストはボツになったものも含めてかなり描いてもらっていたんですよ。フリップのないバージョンとか。けっきょく、グッズとしては使いましたが作中は使いませんでした。 堅田: シナリオを作っていく中でどう転んでもいいように。 瑞澤: そうですそうです。じつは、つば九郎だけ、セリフ部分がフリップのデザインになっているのも見てください(笑)。 堅田: 本当だ(笑)。やはりヤクルト球団とはかなり密にやり取りを? 瑞澤: そうですね。企画立ち上げの段階から、定期的に打ち合わせを行い、野球部分についての監修なども行っていただきました。 堅田: そんな球団事務所もゲームに出てきますよね。作中では、自分が見たことのない球団事務所の受付や内部が描かれていて、ヤクルトファン的には非常にうれしかったです。 瑞澤: じつは、あれはフィクションなんです。 堅田: ええっ。 オフィスや会議室もリアルに描かれているが、じつは架空。 堅田: リアルに描かれているので、てっきり写真からイラストを起こしたのかと思っていました。戸田の球場や土手はかなりそのまま描かれていたので……。 戸田の土手。上は筆者撮影。 瑞澤: もちろん、さまざまな施設に取材に行かせてもらい、写真撮影も行っています。が「選手以外は立入禁止です」と言われた場所もありました。 堅田: あらま。どこですか? 瑞澤: 実際に選手が住まわれている戸田の選手寮です。ここに関しては、知り合いの方も記者の方なども立入禁止だそうでして。 ※とくに読まなくてもいい注釈1:戸田寮……東京ヤクルトスワローズの若い選手たちが住む選手寮。2軍球場である戸田グラウンドと同じく埼玉県戸田市にある。“戸田”といえばヤクルトファンにとっては“2軍”のことであり、選手が「お前明日から戸田な」と言われた場合、それは“2軍落ち”を意味する。近年、スタンドに有料観戦席が設置されたが、土手からタダで試合を眺めるファンも多い。全体的にのどかな雰囲気。台風が来るとたまに水没する。グラウンドがある戸田公園はもともと遊水地(川の氾濫や洪水を防ぐため土地)なのだ。 堅田: へええ、そうだったんですねえ。ところでその戸田寮には、昔から“幽霊が出る”っていうウワサがあるのご存知ですか? 瑞澤: ネットの記事で知りました(笑)。そんなわけで、作中でもじつは正式名称ではなく“選手寮”と表現したりしています。あと、クラブハウスの中も入れなかったのでこちらも想像で描いています。基準があるとすれば“ファンの方がふつうに見られるような場所はリアルに、そうでない場所は架空で”という形になりますね。 神宮球場にも取材に行きましたよ。ふだん入れないようなところも案内していただきました。 堅田: “荒木トンネル”も? 瑞澤: 見ました! 「こんなところに?」っていう、暗い倉庫みたいなところに入口があって、そこから球場まで伸びていると。ひとり通れるくらいの幅の細いトンネルでした。 とくに読まなくてもいい注釈2:荒木トンネル……スワローズのクラブハウスから神宮球場へ伸びる地下通路。1983年、甲子園の大スターだった荒木大輔選手がスワローズに入団。球場への移動時、クラブハウス前で“出待ち”をする女性ファンがあまりに多かったため、地下通路を建設。ファンの前に出ずに球場へと行き来できる地下ルートを掘削した。ちなみに、“平成の怪物”松坂大輔選手の大輔という名前も荒木大輔選手から取られた。当時の荒木大輔フィーバーをしのばせる2大エピソードと言えるだろう。 堅田:うらやましい……。しかしまあ、野球選手はときにアイドルのような人気が出ることもあるということで、“野球+アイドル”という本作のコンセプトがあながち的外れではないことの証拠と言える建築物と言えるかもしれませんね。 瑞澤: 職員の方の仕事場なんかも見させていただいたんですが、建物が古いので電線が上を這っていたり、まわりがレンガだったりして歴史ある球場、歴史ある球団なんだなとしみじみ感じましたね。 堅田: 2024年で球団設立55年ですからねえ。 瑞澤: 半世紀以上あるわけですものね。本当に歴史ある球団で、話を聞いてみないとわからないさまざまなルールがあるんだということも知ることができました。 堅田: たとえばどのような? 瑞澤 : 球団職員の方って、選手がかぶるような帽子を基本的にはかぶらないそうなんです。だから『マイナインスワローズ』でも、そのお話を聞いて、あまり帽子はかぶらせないようにしました。 堅田: たしかにヒーローインタビューのシーンなんかを思い出してみると、外国人選手はもちろん被っていても隣に立つ通訳さんは被っていないですよ、言われてみれば。そのくらい綿密な取材をされていたとのことで。たしかに、先程も話に出ました戸田球場や土手が美しく描かれていて、ファンとしては「おお……あの土手がロマンチックになっとる……」と、驚きました。 瑞澤: 実際に取材してみて、グラウンドの周辺だとロマンチックな場所はあそこしかないなと(笑)。 堅田: ガハハ。ちょっと行くと彩湖がありますよ。ヨットがいる。 瑞澤: 公園側に歩いていくと、家族がバーベキューを楽しんでいるエリアなどがあって、ちょっとロマンチックとは違うなと……。土手もリライトして眺めをよくしました。 堅田: (戸田の土手がリライトされてロマンチックになることってあるんだ)。 ロマンチックになった夕暮れの戸田の土手。 瑞澤: あと、本当は戸田グラウンドと寮ってけっこう離れているんですが作中では少し近い設定にしています。 乙女ゲームに野球要素を入れ込む難しさ 堅田: ふだん乙女ゲームを開発されているスタッフですから、野球についてはそんなに詳しくないんじゃないかなと想像しますが、難しかった点はないですか? 瑞澤: ルール的なところはもちろん監修してもらいました。ゲーム内には野球のことがわからない方でも楽しめるように辞書機能を入れたんですけど、辞書のワードを選ぶために、あえて野球に詳しくない子に選んでもらったり、興味のない人の意見も取り入れたりという作業は、ほかのタイトルではなかった工程でした。 堅田: 実際に遊んでみて、主人公とヒーローたちのドラマの部分は野球のルールがわからなくても楽しめるようになっているなと感じました。 瑞澤: あっ、遊んでいただいたんですね。 堅田: もちろんですよ! “ファンのチームが乙女ゲームになる”なんて、長いプロ野球の歴史でも世界中でも味わえるのは今年のヤクルトファンだけですから! 最初のプレイでは、エースの翔琉(かける)くん(声:松岡禎丞)と仲よくなりました。 瑞澤: それはよかった(笑)。あとは、基本的に立ち絵とテキストで進行するアドベンチャーゲームのシステムで、野球の試合をどう表現するかという点は少し悩みましたね。 最終的には、描写(視点)をテレビ中継風にした点が大きいと思います。球場にあまり行ったことのない方が遊ぶことも多いと思うので、アナウンサーとゲストがいて、おそらく多くの人が一度は見たことがあるであろう実況中継の雰囲気を作ろうと。 堅田: 試合をアナウンサーが実況しつつ、大事な場面ではカットインなども入ってきて、なかなか熱い展開でしたね。 実況アナウンサーが試合展開を熱く解説してくれる。 瑞澤: あと野球関連で言えば、ドーム球場の背景画像があるのですが、背景イラストを描いたときに、あの、棒があるじゃないですか。フェンスの、ホームランのところに。 堅田: ファールポールですか。 瑞澤: 本当はホームベースから伸びるファールラインライン上にないとダメなのですけど、最初のイラストではそれがズレちゃっていて、それを途中で気づいて修正したということがありましたね。 堅田: それはズレてると困りますね!(笑)でもよく気づきましたねえ。逆に、恋愛ドラマ部分でNGになった表現などはありましたか? 瑞澤: ないですね。監修時、野球シーンについての指摘はたくさんいただきましたが、恋愛シーンなどはお任せしていただきました。修正したところで印象深かったのは、ちょっとヤンチャをするモブキャラクターを出したらその名字の選手が実際にスワローズにいるということで、「名前を変えてほしい」と言われまして。しかしもう音声も収録していて、これはちょっとたいへんだぞ、と。 もうボイスも入っていたんですけど、うまいこと編集してなんとかツメることができたのでよかったです(笑)。あとは暴力表現もすこしやわらげました。胸ぐらをつかむケンカくらいは大丈夫かなと思ったんですが。 堅田: 「フィクションだから!」と言いたい気もしますが、難しい部分ですね。 瑞澤: あとは、野球のプレーとは直接関係ないのですが、“ナイン”というところが難しいというか、本作の特徴にもなっていまして。 堅田: というと。 瑞澤: 今回メインキャラクター、いわゆる攻略対象キャラクターが1チームぶん、つまり9人いるのですが、これって最近の乙女ゲームでは多い方なんですよね。オトメイトタイトルでも4~5人という作品が多いですから。 堅田: ほぼ2倍! 瑞澤: ですからボリューム的な意味でも、今回けっこうがんばって作っているんです。 どのキャラクターが人気? 堅田: 乙女ゲームのキャラクターというのはどういうふうに作るのです? 人数が多いと描き分けもたいへんそうですが。 瑞澤: 今回は野球とダンスがあるので、それぞれに得意なキャラクターをまず立てつつ、野球が得意なキャラを多めにしました。それで作って分けて、ダンスが得意な元アイドルふたりを入れたり、残りのメンバーは何らかの形で野球に触れている人物にしました。 堅田: ああ、なるほど。攻略対象が野球選手ということもあって、もう少し年齢層が高めだと思っていましたが、思ったより皆さん若い感じで。 瑞澤: 最年長が中大路蓮(声:笠間淳)で、25歳ですね。主人公は新卒社員の設定なので22歳です。 堅田: 上司の岩本(47歳)や花房監督(57歳)は攻略対象にはならない? 岩本(左)と花房監督(右)。 瑞澤: ならないんです。 堅田: そっかあ……。ちなみに、人気のキャラクターは誰になるんでしょう? 瑞澤: うーん、見ているとエースの翔琉や、ファーストの奏汰ですかねえ。 甘城奏汰(声:八代拓) 堅田: ああ、奏汰。彼はダウナーな感じで、なんというかファーストっぽくない性格をしていますね。 瑞澤: 確かに(笑)。 野球ファンが見た『マイナインスワローズ』 瑞澤: 逆に、野球ファンの方的には、遊んでみていかがでしたか? 堅田: 初めての乙女ゲームでしたが、楽しんでプレイしましたよ。あと、室内練習場で練習している彼……あの、ショートの子の。 瑞澤: 永松尋斗(声:島倉凱隼)ですね。やっぱり守備位置で覚えるんですね。 堅田: そうそう、あの子のイベントCGが、きちんといいスイングしているな~と。 読まなくていい注釈3:いいスイング……「スイングの軸が、ぶれてないでしょ。背骨のところ、縦軸がしっかり立ってて少しだけ後傾していて、視線はきちんとボールを捉えててアタマが動いてないでしょ。視線が動かず軸でスイングできている。で、肩と肘と手首が五角形を作ってるでしょ。トップを作ってそのままポンとバットを出してる。これでコンタクト率が上がる。この子打ちますよ」(在宅野球評論家)。 瑞澤: フォームも細かく球団様にチェックしていただいているんです。なので、そのあたりはかなりリアルだと思います。 堅田: キャラクターの話に戻るんですが、キャッチャーが眼鏡を掛けていると、それだけでヤクルトファン的には「お?」となりました。これは、古田敦也さんをイメージして? 瑞澤: 古田さんをイメージしたわけではなく、じつは偶然なんです。でも、多少その話は出ましたね。ヤクルトといえば古田さんということで。多少イメージはありつつですね。ほかにも、昔の選手のフォームをモチーフとして取り入れている部分も多少あります。 堅田: ほうほう。気にしながら見てみます! あと、小道具のディテールがしっかりと描かれているなあと。ミットの縫い目やマスクなども描写されていて、好感を持ちました。ヘルメットに全部フェイスガードが付いていたり。これって昔はなかったんですけど、数年前からスワローズは付けているんですよ。それがちゃんと描かれていて。 瑞澤: スニーカーやグラブはキャラクターに合わせたデザインになっていたりしますよ。 堅田: あとやっぱりユニフォームが本物そのままなので、スワローズのユニフォームを着たイケメンキャラクターたちが出てくると、なんだか……おもしろいですよね。 瑞澤: ホームとビジター、2種類ともユニフォームは対応させていますからね。ちなみにストーリーの最終戦も、キャラクターによって球場が変わったり、試合の展開もバリエーションがあるので、ぜひ全部見てみてください。 堅田: そうだったんですか! 瑞澤: 衣装で言えば、アイドル衣装もまた印象が変わっていい感じに仕上がっていると思います! アイドル衣装はキャラクターによってデザインが異なっている。 堅田: ちょっとおもしろかったのは、いわゆる共通ルートが終わって個別ルートにいく際に、「誰のルートに行きますか?」と直接的に聞かれるじゃないですか。そこのデザインがプロ野球カード風になっていたのが印象的でした。 瑞澤: あそこはこだわりなんです(笑)。 堅田: シャレも効いているし、システム的にも非常にわかりやすいなと思ったんですが、これは最近の乙女ゲームに多いフォーマットなんでしょうか? 瑞澤: 共通ルートで好感度が高くなったキャラクターのルートへ移行する形が多いと思います。本作ではヒーローが9人いるとうことと、手軽に何度も遊んでいただきたいということを踏まえてこの形にしました。 堅田: プレイヤーへの負担も考えたうえでの割り切りということですね。ゲームシステムや物語は王道的なので、乙女ゲームのファンは安心して楽しめる作品になっているんじゃないかなと思いました。 瑞澤: どす黒い裏切りだとか、最近流行のダークな要素などはないので気軽に遊んでいただけますし、その中でハラハラしつつ楽しめるように作っています。あ、キャラクターのルートによってはちょっとドロドロした雰囲気のルートもありますから、ドロドロ好きな方は探してみてください。 乙女ゲームファンも安心してプレイできるよ 堅田: なんだか野球の話ばかりしてしまったような気がします。 瑞澤: そうですね(笑)。ゲームについて改めてプッシュしておきますと、本作は野球がテーマになっているけれど、知らなくても楽しめるように作られているし、知りたいなと思う方には用語辞典機能も付います。 堅田: 僕は野球がわかるからより楽しかったですけど、本筋部分は野球わからなくても大丈夫だと思いましたよ。 瑞澤: 攻略対象は9人いてボリュームもたっぷりありますし、基本的には爽やかで万人におすすめできる内容になっているので遊んでいただきたいです。あと、個人的にエンディング曲が気に入っているので、ぜひ聞いてほしいなと思います。5年前設定の描き下ろしイラストも見られるので、ぜひ! 堅田: このゲームでファンが増えてくれたらと、僕はすごく応“燕”しています! ヤクルト球団にも聞きました 作中の神宮球場。本物の神宮球場にもある垂れ幕のところに選手たちが入っているのが芸が細かくていい。 本作の開発の端緒である、ヤクルト球団の担当者の方にも質問してみました! お答えいただいた方ヤクルト球団 営業部 商品販売グループ 営業担当 Q1.“プロ球団×乙女ゲーム”という異色のタイトルですが、発案のきっかけやオトメイトに依頼した理由についておしえてください。 昨今、野球界でも選手人気投票や推し活グッズなどを取り扱うようになり、かわいい商品に対してのお客様の反応もよく、野球界全体で女性ファンの方が実際に増えているんです。そこで、お客様が楽しんでいただけるようなコンテンツを考えたときに、女性向けゲームもおもしろいのではないかと思い、乙女ゲーム業界最大手のオトメイト様にお声掛けさせていただきました。 Q2.完成品は、当初の想像通りという仕上がりでしょうか? じつは、企画立案当初は、本作のひとつの軸でもあるアイドル要素はまったく考えておらず、オトメイト様からの発案で、入れ込みました。“野球×アイドル”の非現実感がいままでになくおもしろそうだなと思い取り入れることにしました。 スワローズファンにはおなじみの神宮球場や戸田球場が出てくるものを作成したかったことと、オトメイト様が個性豊かなキャラクターを作り上げてくださったため、おもしろくてきゅんきゅんする作品に仕上がったかと思っております! Q3.本作をどのような方にプレイしてもらいたいですか? スワローズファンの方はもちろん、つば九郎や野球好きの方、アイドル要素も強めなためアイドル系ゲームが好きにもプレイしていただきたいです。 また、乙女ゲームファンで野球にあまり詳しくない方にも、野球やつば九郎に興味を持っていただける良い機会になればいいなと思っております。少しでも興味を持っていただけたら、ぜひ神宮球場にも足を運んでいただけますと幸いです! 夏は花火も上がるよ! まとめと感想 本作の発表時、筆者のアタマの中でくり広げられた会話はこうである。 ――東京ヤクルトスワローズが乙女ゲームになるんだよね。 お、おう? ――東京ヤクルトスワローズが乙女ゲームになるんだって。 お、おう。 ――いや、だから、東京ヤクルトスワローズが乙女ゲームになるんだよ! お、おおう……なるほど……よくわかった……。 つまり、何がなんだかわからなかった。 それでも発売を楽しみにしていたし、実際にプレイしてみると、ゲームとしては意外なほどにしっかりとした作りで、安定感のある内容だった。プレイ経験が乏しいのでほかの乙女ゲームとの比較は難しいんだけど、すごくきちんと作り込まれているという感じがした。 何度も足を運んだ神宮球場や戸田グラウンドが出てきたり、スワローズユニフォームを身にまとったイケメンたちが野球をしたりダンスをしたりするシーンを見ると、なんとも酔狂なゲームだなあと、微笑ましく見ていられる。 こういう酔狂さを持つゲームは、ゲームが産業化して“ゲームビジネス”の側面が強くなった昨今、貴重で珍しい。その酔狂さが僕にとっては魅力的に映る。もともとヤクルトファンには酔狂な人が多いと思う。しばしば言われることだけど、同じ東京にもっと人気のあるチームがあるにも関わらず、ヤクルトファンをやっているのだから(うるせえほっとけバーロと思うまでがわりとワンセットだ)。 スワローズファンはそういった酔狂さを楽しめる人が多いと思う。優勝したと思ったら最下位になって96敗してみたり、かと思ったら連覇したり日本一になってみたり、また最下位になりそうだったり。どうにも、チーム成績も酔狂だ。そういうチームが好きだ。 そんなチームがコラボした乙女ゲーム。こりゃあ酔狂な作品だ。しかもプロ野球選手だのにアイドルとして歌も歌う(実際ゲーム中にもオリジナルソングが収録されている)ってんだから、シャレが効いてらぁ。 実在選手が出てこないのが惜しいところだけど、それでもヤクルトファンだったり乙女ゲームのファンだったりしたら、きっと買って損はないと思う。 なにしろ攻略対象は9人もいるし、つば九郎も出てくる。野球要素や乙女ゲームらしい恋愛模様がありつつ、物語の本筋は、新人社会人の主人公が壁にぶち当たりながら仕事に奮闘するというもの。昼ドラ的というより朝ドラ的で爽やかだ。男性がやっても楽しめる……とまでは言い切らないけど、メインストーリーとしてはテレビドラマ『下剋上球児』(TBS)とか映画『メジャーリーグ』とか、ああいった“野球モノ”に近いといえば近い。 ゲームとしてオトメイトブランドによりしっかりきっちりと作られているし、物語は王道的。すごくちゃんとしている作品だ。野球はわからなくても大丈夫。スワローズの恋愛アドベンチャー。ファングッズとしてもおそらく唯一無二のアイテムだ。 乙女ゲームファンにとってはちょっと“変化球”かもしれないけど、ぜひ遊んでみてほしい。オトメイトの全力が籠められた、“直球勝負”になっているから!(最後にうまいこと言ったぞ)