映画の上映時間は本当に長くなったのか? 歴代アカデミー賞候補作などから検証
少し前の話になるが、第96回アカデミー賞では『オッペンハイマー』が作品賞を含む7部門で受賞した。現代を代表するヒットメーカー、クリストファー・ノーランは無冠の帝王を返上し、主演のキリアン・マーフィーは主演男優賞を受賞した初のアイルランド出身俳優になった。 【写真】上映時間206分の『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』 さて、同作は製作費1億ドルを超える超ビッグバジェット作品だが、上映時間も長い。アカデミー賞の長編部門対象作の最低要件は上映時間40分以上、平均的な長編映画の上映時間は120分程度だが、『オッペンハイマー』の上映時間は180分に及ぶ。最長のアカデミー賞作品賞受賞作は『風と共に去りぬ』で234分だが、上映時間が180分を超える作品が作品賞を受賞することは珍しく、『アラビアのロレンス』(222分)、『ベン・ハー』(212分)、『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』(201分)、『ゴッドファーザー PART II』(200分)、『タイタニック』(194分)、『ダンス・ウィズ・ウルブズ』(181分)など、さほど例は多くない。過去のアカデミー賞作品賞受賞作の平均を出してみると120分程度で、受賞作が150分を超えることもあまりない。 ところで、Googleで「最近の映画」と入力すると、「長い」というワードが候補として出てきた。これは筆者も感じていたことである。実際に最近の映画は長いのだろうか? 下記に3つの例を出してみた。 ■アカデミー賞候補作は本当に長くなったのか? 第1回アカデミー賞(作品賞3本、芸術作品賞3本) 『つばさ』141分 『暴力団』84分 『第七天国』110分 『サンライズ』95分 『チャング』67分 『群衆』104分 平均上映時間:100.1分 まずは第1回の候補作を参考に出してみた。見ての通り全体的に短い。最優秀賞の『つばさ』が最長で141分である。時代が時代なので技術的制約もあったものと思われる。 第82回アカデミー賞 『ハート・ロッカー』131分 『アバター』162分 『しあわせの隠れ場所』128分 『第9地区』111分 『17歳の肖像』95分 『イングロリアス・バスターズ』153分 『プレシャス』104分 『シリアスマン』106分 『カールじいさんの空飛ぶ家』96分 『マイレージ、マイライフ』109分 平均上映時間:119.5分 第82回で作品賞候補数が旧来の5本から現行と同じ10作に拡大された。比較するならレギュレーションが現行に近い、この回以降が適切だろう。第84回には、会員の投票の5%以上の得票率を得た作品から5~10本を選ぶ変動制を導入したが、第94回からは再び10本で固定された。平均上映時間119.5分で、180分超えのものはない。 第86回アカデミー賞 『それでも夜は明ける』134分 『アメリカン・ハッスル』138分 『キャプテン・フィリップス』134分 『ダラス・バイヤーズクラブ』117分 『ゼロ・グラビティ』91分 『her/世界でひとつの彼女』120分 『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』115分 『あなたを抱きしめる日まで』98分 『ウルフ・オブ・ウォールストリート』179分 平均上映時間:125.1分 キリよく10年前のアカデミー賞候補作を出した。第82回から平均6分伸びている、 第91回アカデミー賞 『グリーンブック』130分 『ブラックパンサー』134分 『ブラック・クランズマン』135分 『ボヘミアン・ラプソディ』134分 『女王陛下のお気に入り』120分 『ROMA/ローマ』135分 『アリー/ スター誕生』135分 『バイス』132分 平均上映時間:131.8分 こちらはキリよく5年前のアカデミー賞候補作である。第86回から微増し、約6分伸びている。 第96回アカデミー賞 『オッペンハイマー』180分 『アメリカン・フィクション』118分 『落下の解剖学』152分 『バービー』114分 『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』133分 『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』206分 『マエストロ:その音楽と愛と』131分 『パスト ライブス/再会』106分 『哀れなるものたち』141分 『関心領域』105分 平均上映時間:138.6分 見ての通り、顕著に平均時間が伸びている。第82回とおよそ19分、第91回とおよそ7分違う。このことから、アカデミー賞の作品賞候補作は「長くなった」のが事実であることがわかった。では、伸びた理由として何があるのだろうか?