【パリ五輪を戦った大岩剛の回顧録|後編】オリンピックにベストメンバーで臨むのはもはや不可能。メダルを目ざすのか、それとも――「その岐路に立っている」
強化のあり方を考えるフェーズに入ってきている
「フェルミンのような選手がゴロゴロいるような時代にならないといけない」 大岩監督も日本とスペインを比較した際に足りていなかったと言う。 「A代表における五輪世代の分母を多くすることと同時に、A代表に漏れていても戦える五輪年代の選手がいくらでもいる状況にしないといけない。今回、パリ五輪世代でA代表を経験したといっても(細谷や鈴木以外は)トレーニングキャンプに行った経験があるぐらい。試合に出たり、公式戦に出るような選手は少なかった。(五輪に出ることになって)悔しがっているような選手がたくさんいてほしい。スペインのクバルシもそうですよね。しかも17歳ですから」 では、そうした選手を輩出するために日本は何をすべきなのだろうか。明確な答えがあるわけではないとしつつ、大岩監督はプレーモデルやサッカーの方向性などの“継続性”をポイントに挙げた。 「若い年代から継続していくことが大事。全てのカテゴリーが同じようにやっていくことが遠回りのようで近道。定期的に変えてしまうと、時間がかかってしまう。その時々でフワフワするよりも、明確に打ち出して取り組む。それが選手の自信になり、レベルアップにつながる。高井(幸大)みたいな選手がどんどん出てきて、A代表にどんどん入っていけるといいですよね」 たとえば、今のスペイン代表は一貫性があると大岩監督は話す。 「スペインのA代表で指揮を執るデ・ラ・フエンテは東京五輪でチームを率い、僕らが22年11月にU-21のスペイン代表と戦った際も監督を務めていました。その直後にA代表の監督になって、今夏にEUROで優勝している。僕も影響を受けた指揮官のひとりですけど、継続性はキーワードになるはず」 96年のアトランタ五輪で28年ぶりに出場した当時と比べ、今の日本サッカー界の立ち位置は変わり、五輪は必ずしもベストメンバーが組める大会ではなくなった。そうした事実を受け入れつつ、強化のあり方を考えるフェーズに入ってきている。 「この年代の選手をどうしてほしいのか。いろんなことがあるなかで招集が難しくなった時にどう舵を取っていくのか。その岐路に立っている。今まで通り(金メダルを目ざす)の方針でいくのか、そうではないのか。目標によって予算も格段に変わってくるし、指導者に対するお金の使い方も変わってくる。育成ではなく、責任や結果を求めるのであれば、それなりの費用がかかる。実際にどう持っていくのかは協会次第」 今までのようにメダル獲得を目ざし、強化をしていくのか。そのためには時間もお金もビジョンも必要になる。だが、現実問題としてベストメンバーを揃えることは難しくなっており、次のロス五輪ではさらに難航することが予想される。 そうした問題を直に味わってきたからこそ、大岩監督には見えることもあった。全ての問題を一度精査し、次のロス五輪に向けて動き出していくしかない。残された時間は4年弱。長いようで短い。大岩監督が歩んできた道は日本サッカー協会にとって貴重であり、活かさなければ意味はない。全ての答えを出すには様々な議論が必要になるが、少なくとも五輪という大会を改めて考える時期にきている。 《このシリーズ了》 取材・文●松尾祐希(サッカーライター)