「W杯優勝」が野望「習近平」の面目丸つぶれ…腐敗する「中国サッカー界」八百長、賭博、汚職で34人が懲役刑、元代表は永久追放
サッカー界高官が軒並み逮捕
実は、腐敗捜査はすでに2年前から始まっていた。22年11月に中国男子サッカー代表チームの李鉄・元ヘッドコーチが逮捕されて以来、中国サッカー界では汚職に関与した9人が有罪判決を受けている。李鉄氏が受け取ったとされる金額は約1億2,000万元(約24億円)とされる。 続いて23年4月、中国共産党直属の捜査機関である党中央紀律検査委員会と中国国家監察委員会が「重大な紀律違反と法律違反の疑い」を理由に、中国のスポーツ界を統括する国家体育総局のナンバー2で、中国サッカー協会トップを兼務していた杜兆才・同総局副局長を逮捕した。杜氏は、4,341万元(約8億6,820万円)あまりの賄賂を受け取ったとして党籍はく奪などの処分を受け、今後、量刑が決定される。 また、今年3月26日には、3件の判決が言い渡された。中国サッカー協会の元会長である陳旭遠氏は8,103万元以上の賄賂を受け取ったとして終身刑、中国サッカー協会の元副会長である于洪辰は懲役13年、元事務局副事務局長で元代表チーム管理部門のディレクターである陳永亮は懲役14年――との量刑を下されている。 今年8月には、中国サッカー協会の元副会長である李玉儀氏が賄賂を受け取ったとして懲役11年と罰金100万元の判決を受け、同協会競技部の元部長である黄宋氏も懲役7年、60万元の罰金、武漢サッカースポーツ管理センターの元所長である溥翔氏も横領、贈収賄の罪で懲役11年と罰金140万元の刑を宣告されている。成都サッカー協会の元会長兼事務局長であり、中国サッカー協会の執行委員会の元メンバーである顧建明氏は横領、贈収賄の罪で6年の懲役と40万元の罰金を言い渡されている。
腐敗の元凶は習近平のサッカー改革案
混乱の原因について、日本の選手の育成にもかかわった元プロサッカー選手で指導者のトム・バイヤー氏は台湾紙「自由時報」のインタビューで、「習近平氏が『中国にW杯優勝を』と発言したことが最大の失敗だ」と指摘している。 習氏が熱狂的なサッカーファンであることはよく知られている。習氏は少年時代からサッカーに親しんでおり、片時もボールを話さなかったともいわれるほどだ。父親の習仲勲氏が中国副首相を務めるなどの大幹部だったことから、習氏は文化大革命(1966~76年)で迫害を受け、中国の片田舎である陝西省・梁家河に下放され、肉体労働を強いられた。その際、無聊を慰めたのがサッカーだった。夜遅くに布を丸めたボールを蹴って気を紛らわせていたというほどだ。 その後、地方幹部を経て、党最高幹部である党総書記に就任する1年前の2011年7月、当時、中国国家副主席だった習氏は韓国を訪問し、当時の韓国民主党党首の孫鶴圭氏と会談した際、サッカーに賭ける3つの願いを披露した。それは(1)ワールドカップ(W杯)に再び出場する、(2)中国がW杯を主催する、(3)W杯で優勝する――ということだった。 中国サッカーチームがW杯に出場したのは2002年大会の1度切りだ。まずは、中国代表チームが再度のW杯出場を目指して態勢を整えるのが先決とばかり、習氏は2015年3月、主催する「全面的な改革深化のための指導グループ」の会合で、国策としてサッカーを支援する「サッカー改革プラン」を可決させた。同プランでは「スポーツに強い国はサッカーにも長けている必要がある」としたうえで、それは「国家全体の悲願」でもあると強調しており、この改革案の裏には、習氏のサッカーにかける熱い思いがあったに違いない。 改革案では、「2050年までに中国をサッカー強国に」という趣旨の国家プロジェクトをスタートさせ、数億ドルを投じて世界的な選手や指導者を招聘するとともに、15年から20年までの5年間でサッカー場を6万カ所新設すると発表した。15年時点で、中国には1万ものサッカー場があったので、20年までにサッカー場だけで7万カ所も存在することになった。これは人口2万人の市町村にサッカー場が1つという計算だ。 しかし、このような壮大な計画が実行されながら、中国サッカーは依然として、汚職や八百長、サッカー賭博など慢性的な問題を抱えており、代表チームも国際舞台で結果を出せずにいる。