「M-1」審査員に抜擢「アンタ柴田」はなぜ、完全復活を遂げたのか 笑いの怪物「山崎」に劣らぬ“圧倒的な実力”
パワーにはパワーで
アンタッチャブルは伝説的なお笑いコンビである。特に、ボケを担当する山崎弘也のキャラクターは際立っていて、どうしてもそちらにばかり目が行きがちだ。しかし、アンタッチャブルの漫才があれほど面白いのは、ツッコミ担当の柴田が山崎に負けないほどの実力を持っているからだ。 笑いのセオリーとしては、山崎のような自由奔放でパワフルなスタイルのボケに対しては、ツッコミ側がそこに一方的に振り回されるような役回りを演じることが多い。 しかし、柴田はそうやって受け身に回ることをしない。パワーにはパワーで堂々と渡り合い、山崎に負けないほど声を張り上げ、オーバーなリアクションをして、べらんめえ口調で力強くツッコミを返していく。 その力と力のぶつかり合いこそが、アンタッチャブルの漫才の魅力だ。「M-1」で漫才を披露した際には、ネタが終わった後に舞台裏に引っ込んだ柴田が、そのままスタジオの床に仰向けに倒れ込んでいたこともあった。笑いの怪物である山崎と渡り合うには、そのぐらい体力を消耗するということなのだろう。 アンタッチャブルの力強い漫才はお笑い界でも唯一無二のものだ。初期の「M-1」では、中川家、ますだおかだ、フットボールアワーと関西芸人が立て続けに優勝していて、関東芸人は勝てないと言われていた。関西弁でリズムを作れる関西芸人に対して、関東芸人は言葉の面で不利だとされていたのだ。 しかし、2004年の「M-1」では、アンタッチャブルはそんな俗説をものともせず、圧倒的な力を見せつけ、ぶっちぎりで優勝を果たした。彼らは2人が2人とも怪物だった。 規格外の実力を見せつけた彼らは、そこから一気にスターダムを駆け上がり、テレビの人気者になった。しかし、柴田が不祥事で謹慎処分を受けてからは、コンビでテレビに出ることはなくなり、個々人での活動が中心になっていた。 そんな彼らは2019年11月放送の「全力! 脱力タイムズ」(フジテレビ系)で久々の共演を果たし、コンビとしての活動を再開した。その後は、それぞれが活躍する一方で、コンビとしても徐々に仕事が増えていった。 「M-1」の審査員というのは、どんな大物でも緊張するような大役だが、数々の修羅場を乗り越えてきた柴田であれば問題はないだろう。堂々とその役目を果たし、「M-1」を盛り上げてくれるはずだ。 ラリー遠田 1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。 デイリー新潮編集部
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